2024年にニューヨーク・リバティで球団史上初のWNBA優勝を果たしたサブリナ・イオネスクは、2025年シーズン開幕を迎えた現在、ディフェンディングチャンピオンの立場で新たな挑戦に臨んでいます。
チームはブレイオネ・スチュワート、ジョンケル・ジョーンズとの強力な「ビッグスリー」を継続し、連覇を目指す態勢です。
イオネスク自身、2024年シーズンに自己最高の成績を収めてオールWNBAセカンドチームに選出されるなど飛躍を遂げており、さらなる成長が期待されています。
開幕前には、リバティがプレシーズンでオレゴン州ユージーン(彼女の母校所在地)を訪れ、同市長から5月12日を「サブリナ・イオネスクの日」とする栄誉が贈られる一幕もありました。
こうした最新トピックは、大学時代からスター街道を歩むイオネスクの注目度が依然として非常に高いことを物語っています。
WNBAでのキャリア:ドラフトから飛躍まで
イオネスクは2020年のWNBAドラフト全体1位でニューヨーク・リバティに指名され、プロキャリアをスタートしました。
ルーキーシーズンは新型コロナウイルスの影響で集中開催となった中、開幕直後の第3戦で左足首に重傷を負い残りシーズンを全休する不運に見舞われます。
復帰した2年目の2021年シーズンも万全ではなく、平均11.7得点・6.1アシスト・5.7リバウンドと本来の力を発揮しきれませんでした(チームは12勝20敗ながら2017年以来のプレーオフ進出)。
この苦い経験から「健康でないなら無理にプレーすべきでない」と学んだと本人は振り返っています。
2021年5月、イオネスクは復帰後間もなくWNBA史上最速となるキャリア6試合目でのトリプルダブルを達成し、リーグに衝撃を与えました。
これはリバティ球団初にしてWNBA全体でも通算10度目の快挙であり、従来の最速記録(シェリル・スウープスの59試合)を大幅に塗り替えるものでした。
この試合でイオネスクは26得点・12アシスト・10リバウンドを記録し、チームを14年ぶりの開幕3連勝に導いています。
彼女自身
「勝利してのトリプルダブルが大事」
と語り、大学時代に達成したNCAA記録の26回と併せてプロでも初の達成となったことに「とてもクール」と喜びを表現しました。
2022年シーズン、完全復調したイオネスクはリーグを代表するガードへと飛躍を遂げます。
平均17.4得点・7.1リバウンド・6.3アシストのオールラウンドな活躍でチームをプレーオフに導き、リバティとして7年ぶりのポストシーズン勝利にも貢献しました。
この年、WNBA史上初となるシーズン累計500得点・200リバウンド・200アシスト超えを達成し、オールWNBAセカンドチームとオールスター(ファン投票で先発)に選出。
さらにオールスターのスキルチャレンジ優勝も飾るなど躍動します。
2022年7月にはラスベガス・エーシズ戦で31得点・13リバウンド・10アシストを挙げ、WNBA史上初の「30得点トリプルダブル」を達成しました。
これは自身にとって通算3度目のトリプルダブルで、キャンデース・パーカーの持つリーグ歴代最多記録(3回)に並ぶ快挙でもありました。
同試合は両チーム合計得点223点というリーグ記録的な打ち合いとなり、イオネスクは史上初めて「トリプルダブル達成&ターンオーバー0」という完璧な内容でチームの116-107の勝利に貢献しています。
2023年、リバティはブレイオネ・スチュワートやコートニー・ヴァンダースルートといったスター選手を獲得し、大型補強によって「スーパー팀」を結成。イオネスクはこの強力な布陣の中でも先発ポイントガードとして存在感を示し、平均17.0得点・5.6リバウンド・5.4アシストでチームを牽引しました。
オールスターでは2年連続先発に選出され、3ポイントコンテストでは史上最高得点となる37点を叩き出し優勝する離れ業も見せています。
チームはWNBAファイナルまで勝ち進み、2023年はラスベガス・エーシズに惜しくも敗れたものの、翌2024年シーズンには雪辱を果たしました。イオネスクとリバティはプレーオフで快進撃を遂げ、ファイナルではミネソタ・リンクスを3勝2敗で下し創設27年目にして初のリーグ制覇を成し遂げたのです。
2024年ファイナルでイオネスクは第3戦で77-77の同点から勝ち越しの長距離3ポイントを沈めるクラッチプレーを披露し、シリーズの行方を大きく引き寄せましたi。
最終第5戦ではシューティングに苦しみつつも、チームトップの8アシストと7リバウンドに加え2スティール・1ブロックと攻守で貢献し、勝利に必要なプレーを体現しています。
このタイトル獲得により、イオネスクは見事WNBAチャンピオンの称号を手にし、2022年から3年連続でオールWNBAセカンドチームに選出されるなど個人としても安定したトップクラスの成績を残しました。
リバティとは2023年に契約延長を結び、2025年までの複数年契約を締結済みで、現在は連覇とさらなる飛躍を目指す中心選手として期待を一身に集めています。
大学時代の偉業(オレゴン大学)
イオネスクは大学バスケットボール界において伝説的な実績を残しました。
オレゴン大学に在籍した4年間で通算2,562得点・1,040アシスト・1,040リバウンドを記録し、男女通じてNCAA史上初となる“2000-1000-1000”クラブを達成した唯一の選手となりました。
彼女はまたNCAA史上最多となる通算26回のトリプルダブルを記録し、従来記録(男子のカイル・コリンズワースの12回)を大きく塗り替えています。
大学3年目までにすでにトリプルダブル数で歴代トップに立っていたイオネスクは、4年次にも8回達成して自身の単季記録に並ぶ活躍を見せました。
中でも2020年2月24日、ロサンゼルスで行われた故コービー・ブライアント氏の追悼式でスピーチを行ったその夜にスタンフォード大学との試合に臨み、21得点・12リバウンド・12アシストのトリプルダブルを達成したエピソードは語り草となっています。
この試合で彼女はNCAA初の2,000点・1,000リバウンド・1,000アシストを成し遂げ、自身の偉業に花を添えました。
チーム面でもイオネスクはオレゴン大学女子バスケを未曾有の高みに導きました。2019年のNCAAトーナメントではチーム史上初のファイナルフォー(ベスト4)進出に大黒柱として貢献し、準決勝では最終優勝校ベaylor大学に惜敗したものの全米に強豪オレゴンの名を知らしめました。
翌2020年もオレゴンは全米ランキング上位をキープしタイトル候補と目されたものの、新型コロナの影響でトーナメントが中止となり、イオネスクは無冠のまま大学キャリアを終えています。
しかし個人タイトルは総なめにしており、2020年にはAP通信・ネイスミス賞・ウッデン賞など主要な年間最優秀選手賞を軒並み受賞。
3年次と4年次の二度にわたりシーズン平均トリプルダブルに迫る活躍を見せるなど規格外の成績で、2018年から3年連続でPac-12カンファレンス年間最優秀選手にも選出されました。
大学通算1,091アシストはPac-12の歴代最多記録であり(男子のレジェンド、ゲイリー・ペイトンの記録938を更新)、彼女の在学中にチームの観客動員数が飛躍的に増加したことも特筆されます。入学前は平均1,500人ほどだったホームゲーム観客数が、シニア(4年次)には平均1万人を超え全米2位となり、オレゴンの女子バスケ史上最多動員試合トップ10のうち9試合が2018-2020年に記録されるなど、イオネスクは文字通りチームと大学スポーツ界の顔となりました。
これらの功績から、オレゴン大学のケリー・グレイブス監督は
「彼女はマーカス・マリオタ級の伝説になる可能性がある」
と早くから称賛し、実際に地元ユージーンでは2025年に「サブリナ・イオネスクの日」が制定されるまでの存在となっています。
米国代表での活躍
イオネスクはアメリカ合衆国代表としても輝かしい経歴を積み重ねています。
ジュニア年代から各種国際大会で金メダルを獲得し、U17世界選手権(2014年)や3x3U18ワールドカップ(2018年)、パンアメリカン競技大会(2019年)などで優勝を経験しました。
フル代表(シニア)には大学卒業後に招集され、2022年のFIBA女子ワールドカップではアメリカ代表の一員として初の世界一に貢献しました。
シドニーで開催されたこの大会でUSAは8戦全勝で金メダルを獲得し、イオネスク自身もプレーオフ3試合合計で10得点・6リバウンドを挙げています。
出場時間は1試合平均12.8分とチーム内では最も少なかったものの、
「初出場の大会では控え目な役割でも、次回以降に大きな飛躍を遂げる可能性がある」
と期待されました。
実際、彼女はその後も代表プールに名を連ね、2024年パリ五輪では最終ロースター12名にも選出されています。
パリ五輪の女子バスケットボール決勝でアメリカ代表はフランスを67-66で下し8連覇を達成、イオネスクは自身初のオリンピック金メダルを手にしました。
代表チームでも将来を嘱望される次世代のスターの一人であり、経験を積んだ彼女の活躍が今後の国際大会でも重要になるでしょう。
コート外での話題と影響力
コート上での成功と並行し、イオネスクはビジネスや社会的活動でも大きな存在感を示しています。
2020年4月、大学卒業と同時に大手スポーツメーカーのナイキ社と新人契約を結び、将来的なシグネチャーモデル(本人名を冠した商品)の展開も発表されました。
その約束通り、2023年9月に初のシグネチャー・シューズ「Nike Sabrina 1」が発売され、WNBAのみならず女子スポーツ界全体で話題を呼びました。
女性バスケットボール選手が自身の名前を冠したバッシュを持つのは極めて稀であり、彼女の市場価値とブランド力の高さを示す出来事でした。
また母校オレゴン大学との繋がりも深く、2022年11月には同大の「アスレチック・カルチャー・ディレクター(競技文化ディレクター)」という役職に就任しています。
この肩書は主に学生アスリートのメンター的役割を担うものとされ、伝説的OBである彼女が後進の模範となるべく大学スポーツに貢献していることが窺えます。
私生活においても注目すべきトピックがいくつかあります。イオネスクはルーマニア系アメリカ人の家庭に育ち、双子の兄もバスケットボール選手として活躍しました。
プライベートではNFL選手のフロニス・グラシュと交際していたことが知られ、2024年3月にカリフォルニア州で結婚式を挙げています。
式には師と仰ぐ故コービー・ブライアント氏の未亡人ヴァネッサ・ブライアントさんや大学時代のチームメートだったサトゥ・サバリー選手らも出席し、幸せな門出をNBA・WNBA界の仲間たちが祝福しました。
また2023年オフにはWNBA選手の地位向上と競技普及を目的とした新設の3×3プロリーグ「Unrivaled」に参画し、同リーグ初年度の顔ぶれに名を連ねたことも話題となりました。
こうしたコート外での活動や発信力により、イオネスクはスポーツの枠を超えたアイコン的存在になりつつあります。
実際、2025年5月に前述のユージーン市から「イオネスクの日」が贈られたことや、2025年METガラ(ファッション界最大の催し)にチームメートと招待参加したことなど、スポーツ以外の方面でも注目を集める存在です。
総じてサブリナ・イオネスクは、卓越した技術と競争心でバスケットボール界に新たな歴史を刻みつつ、その人間的魅力と影響力で社会にもポジティブなインパクトを与え続けています。
参考文献
- Autzen Zoo (autzenzoo.com)
- ESPN (espn.com)
- India Today (indiatoday.in)
- New York Liberty – WNBA (liberty.wnba.com)
- People.com
- Sports Illustrated (si.com)
- Team USA (teamusa.com)
- The Local W (thelocalw.com)
- University of Oregon News (news.uoregon.edu)
- Wikipedia (en.wikipedia.org)
- WNBA.com