2025年のWNBAシーズン開幕戦、ニューヨーク・リバティは本拠地バークレイズ・センターで前年王者として初のチャンピオンシップ・リング授与式と優勝バナー掲揚を行いました。
式典では、スチュワートが3歳の娘ルビーちゃんの手を引き、1歳の息子テオくんを抱えながらリングを受け取る微笑ましい場面もありました。
その直後の開幕戦でリバティはライバルのラスベガス・エーシズを92–78で下し、チームは連覇へ向け好スタートを切ります。
スチュワート自身はオフシーズン中の左膝半月板手術(関節鏡による処置)から復帰したばかりとは思えない見事なパフォーマンスを披露し、この試合で25得点・8リバウンドを記録しました。
試合後には
「バークレイズ・センターに来る全ての人に“チャンピオンシップ・スタンダード”を示せた。ファンと共にこの瞬間を迎えられて特別だ」
と語り、優勝に慢心せず“連覇”への強い意欲を示しています。
WNBAキャリア:シアトルからニューヨークへ
大学卒業後、ブリアナ・スチュワートは2016年のWNBAドラフトで全体1位指名を受け、シアトル・ストームに入団しました。
ルーキーイヤーからリーグを代表する存在となり、2016年シーズンの新人王に選出されています。
2018年、プロ3年目にして早くもリーグMVPに輝くと、同年プレーオフでは平均21.8得点を挙げてチームをファイナル制覇に導き、自身もファイナルMVPを受賞しました。
翌2019年はアキレス腱断裂の重傷に見舞われシーズン全休を余儀なくされましたが、懸命なリハビリを経て2020年にコートへ復帰します。
復帰直後の2020年シーズンも圧巻の活躍を見せ、ストームは再びリーグ優勝を果たし、スチュワートは2度目のファイナルMVPに輝きました。
その後もストームの主力として活躍し続け、2021年にはリーグ25周年記念の歴代トップ25選手「The W25」に当時27歳で史上最年少選出されています。
2022年シーズンには自身初の得点王にも輝き、平均21.8得点でリーグを支配する姿から「現在のWNBAで最も支配的な選手の一人」と評されました。
2023年、スチュワートは大型フリーエージェントとして故郷ニューヨーク州に本拠を置くニューヨーク・リバティへ電撃移籍しました。
リバティでは加入初年度からチームの中心として躍動し、開幕直後のホームデビュー戦で早くも45得点の球団新記録を樹立するなどハイペースで得点を量産。
シーズン途中には同一シーズンで3度の40得点ゲームを達成し、WNBA新記録を打ち立てています。
最終的にリバティは球団史上最高の32勝(リーグ歴代2位タイ)を挙げ、スチュワート自身も平均23.0得点・9.3リバウンドとキャリア最高の成績でシーズンMVPに選出されました。
プレーオフではWNBAファイナルまで勝ち進みラスベガス・エーシズとの頂上決戦に臨みましたが、2023年は惜しくも準優勝に終わります。それでも翌2024年シーズン、スチュワートとリバティは雪辱を果たしました。
プレーオフで宿敵エーシズや古豪ミネソタ・リンクスを退け、ニューヨーク・リバティにとって創設以来初となるWNBA優勝を達成したのです。
この優勝によりスチュワート個人としてはWNBA通算3度目のチャンピオンとなり
、シアトルからニューヨークへと舞台を移しても変わらぬ「勝利の女神」ぶりを証明しました。
大学時代:コネチカット大学で前人未踏の4連覇
ニューヨーク州シラキュース出身のスチュワートは、高校時代から将来を嘱望されるスター選手でした。
名門コネチカット大学(UConn)に進学すると、1年生だった2012-13シーズンに早くも全米大学選手権(NCAAトーナメント)制覇を経験。
以降2014年から2016年にかけて前人未踏のNCAA4連覇を成し遂げ、在学4年間でチームは驚異の151勝5敗という圧倒的な戦績を残しました。
スチュワート自身も毎年のように大舞台で活躍し、NCAAトーナメントの最優秀選手(MOP)に史上初めて4度連続で選出される快挙を達成しています。
さらに3年生以降は3年連続で全米最優秀選手賞(ウッデン賞やネイスミス賞など)を総なめにし、大学女子バスケットボール史上最高の選手との呼び声も高い存在となりました。
4年間で通算2,676得点・1,179リバウンド・414アシスト・414ブロックを記録し、UConn史上2番目の通算得点を挙げるなどスタッツ面でも名実ともに大学バスケ界の伝説となったのです。
圧倒的な勝負強さとオールラウンドな活躍ぶりから“学生時代から別格”と評され、後にWNBA入りしてからも即戦力として期待される存在でした。
米国代表としての活躍
スチュワートはアメリカ代表としても数々の栄光を手にしています。2014年に19歳で初めてシニアのアメリカ女子代表入りし、同年のFIBA女子ワールドカップで金メダルを獲得。以降、オリンピックでは2016年リオデジャネイロ大会、2020年東京大会、2024年パリ大会と3大会連続で金メダルに輝き、FIBAワールドカップでも2014年大会、2018年大会、2022年大会で3度の世界一に貢献しています。
2018年のワールドカップでは大会MVP(最優秀選手)を受賞し、東京五輪でも大会MVP級の活躍でチームを牽引しました。
長年アメリカ代表の主力として活躍したスー・バードやダイアナ・タウラジらレジェンドの後継者として、スチュワートは攻守にわたる万能さと勝負強さで米国代表の新たなリーダー的存在となっています。
実際、東京五輪(2021年開催)の準決勝ではチームトップの得点を挙げるなど大舞台でも安定した活躍を見せ、パリ五輪でもオールスターファイブに選出されるなど世界最高峰の舞台で常に存在感を放ちました。
こうした国際大会での実績も積み重ね、2025年時点でオリンピック3連覇・W杯3度制覇という偉業を成し遂げており、米国代表史に残る選手としての地位を確立しています。
コート外での活動と影響力
コート上で数々の栄光を手にする一方、ブリアナ・スチュワートはコート外でも大きな影響力を持つ存在です。
社会貢献や発言力の面では、WNBA入り後に積極的に社会正義や平等の問題に声を上げてきました。
実際、ブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動からジェンダー平等、LGBTQの権利擁護に至るまで、様々な社会的イシューに対して公開の場で発信しており
、2020年にはWNBA選手会の「社会正義評議会(Social Justice Council)」メンバーとしてリーグぐるみの活動にも携わりました。
また、自身も同性婚を公表しており、女性アスリートが直面する課題について率直に語る姿勢は多くの支持を集めています。
スチュワートはWNBAの待遇改善にも熱心で、特に選手の移動環境向上に向けた提言は大きな話題となりました。
2023年のオフシーズンには、リーグが禁止しているチャーター機利用の問題に言及し、「全チームがチャーター便で移動できるようスポンサー料や自身の肖像権収入を充てても構わない」とSNS上で表明しています。
この発言はWNBAのフリーエージェント交渉にも影響を与え、リーグと選手の待遇改善議論を前進させるきっかけの一つとなりました。
実際、同年には同僚のブリトニー・グライナー選手(ロシアでの不当拘禁から解放)への安全配慮からチャーター機が一部容認される動きもあり、スチュワートの問題提起は大きな意味を持ったと言えます。
プライベートでは、2021年に元スペイン代表の女子バスケットボール選手マルタ・サルガイさんと結婚しました。
同年8月には代理母出産を通じて長女のルビーちゃんが誕生し(奇しくも東京五輪で金メダルを獲得した直後でした)、2023年10月には次女テオくんが誕生しています。
ルビーちゃんは代理母を介して迎え、テオくんは妻マルタさん自身が妊娠・出産する形となりました。
第一子出産からわずか数日で五輪に参加し金メダルを獲得し、第二子もWNBAファイナル直後に誕生するというタイミングで、スチュワートは競技と家庭を見事に両立させています。
これは**「女性は出産したら競技を続けられない」という偏見を打ち破る象徴的出来事**でもあり、実際スチュワートは2023年シーズン、出産後でありながらリーグMVPを獲得する活躍を見せています。
WNBAも近年は新労使協定で出産後の給与保障や育児支援制度を充実させており、スチュワートはそうした恩恵を受けつつ、自らも母親アスリートのロールモデルとして発信を行っています。
さらにビジネス面でも革新的な取り組みを行っており、2022年にはプーマ(Puma)社と契約して自身初のシグネチャーシューズ「Stewie 1」を発表しました。
このモデルはWNBA選手としては約10年ぶりの本格的なシグネチャーバッシュとなり、大きな注目を集めました。
以降「Stewie 1」は各色展開され、2023年には第2弾となる「Stewie 2」も発売されています。スチュワートはデザイン段階から積極的に関与し、自身のニックネーム「Stewie(スチュイー)」を冠したこのバッシュを通じて女子バスケの存在感向上にも寄与しています。
2023年春には「Stewie 2」の特別カラーとして娘の名前にちなんだ赤色モデル「Ruby」を発表し、母となった自分の新たなモチベーションを製品にも反映させました。
そして特筆すべきは、WNBAオフシーズンにおける選手の活躍の場を作るため、新たなプロリーグ「Unrivaled(アンライバルド)」を創設したことです。
スチュワートは盟友ナフィーサ・コリアー選手と共に2023年7月にこの女子3人制バスケットボールリーグ立ち上げを発表し、2025年1月に記念すべき初シーズンが開幕しました
。
自らも選手として参加したスチュワートは開幕戦でリーグ史上初の得点を記録し
、リーグ運営にも携わりながらWNBA選手の新たな収入源と競技機会を創出しています。
この功績が評価され、スチュワートは2025年版「タイム100(世界で最も影響力のある100人)」の一人にも選出されました。
同リストへの選出理由として「Unrivaledを通じた女子スポーツ界への革新的貢献」が挙げられており、競技の枠を超え社会に影響を与える存在として認められています。
このようにブリアナ・スチュワートは、コート内外で際立った実績と影響力を発揮してきました。
WNBA、大学、国際大会のすべてで頂点を極め、さらに母として、活動家として、ビジネスパーソンとしても新たな道を切り拓いています。
2025年現在も現役最強クラスの選手であり続ける彼女は、「勝利」と「改革」を体現するスーパースターとして、これからも女子バスケットボール界を牽引していくことでしょう。