2025年シーズン開幕前、ジュエル・ロイドは9年間在籍したシアトル・ストームからラスベガス・エーシズへ電撃移籍いたしました。
2024年オフにシアトルのチームスタッフとの間で問題が生じ、ロイド自身がトレードを要望した結果、2025年2月にロサンゼルス・スパークスも交えた三角トレードが成立し、ロイドはエーシズに加わりました(交換要員としてエーシズのエースガードであったケルシー・プラムがスパークスへ移籍)。
ロイドが新天地で合流したエーシズは2022年と2023年にWNBA連覇を達成した強豪チームであり、ロイドにとって初めての移籍先がリーグ屈指の優勝候補となりました。
エーシズではアジャ・ウィルソンやチェルシー・グレイ、ジャッキー・ヤングなど、アメリカ代表でもチームメイトだったスター選手たちとの再合流を果たし、ロイドはすぐに主力の一角を担っています。
開幕当初こそ新チームへのフィットを模索しましたが、第2戦ではわずか21分間の出場で6本の3ポイントを沈め20得点を記録し、続くホーム開幕戦では試合終了間際に決勝の3ポイントシュートを決める活躍で勝利に貢献しました。
このようにロイドは移籍直後から勝負強さを発揮しており、新天地ラスベガスでもその存在感を遺憾なく示しています。
移籍に至る経緯は予期せぬものではありましたが、本人は「環境を一新できたこと」を前向きに捉えており、名門エーシズで新たな栄光を目指す強い意気込みを語っています。
WNBAでのキャリア
ロイドは2015年のWNBAドラフトで全体1位指名を受け、シアトル・ストームに入団しました。
ルーキーイヤーから即戦力として活躍し、平均10.7得点の成績で同年のWNBA新人王に輝いています。以降は着実に成長を遂げ、リーグを代表するスコアラー兼クラッチプレーヤーへと飛躍しました。
シアトルではスー・バード、ブレアナ・スチュワートと共に「ビッグ3」を形成し、チームの主力として2018年と2020年のWNBA優勝に大きく貢献しました。
特に2018年にはロイド自身初のWNBAチャンピオンリングを獲得し、2020年にも再び頂点に立っています。
ストーム在籍中のロイドはオールスターにも通算6度選出され(2018年、2019年、2021年~2024年)、2021年には自身初のオールWNBAチーム1stチームにも名を連ねました。
また、2023年シーズンには平均24.7得点を挙げてリーグ得点王となり、WNBA史上最多となるシーズン939得点の新記録を樹立しています。さらに同年のオールスターゲームでは31得点(歴代最多)・3ポイントシュート10本成功という圧巻の活躍でMVPを受賞し、自身の名を改めてアピールしました。
こうした個人タイトルや功績に加え、勝負所での強さから「ゴールド・マンバ(黄金のマンバ)」の異名を取り、ストームの顔としてファンから深く愛される存在でした。
2022年限りで長年の相棒スチュワートがチームを去り再建期に入ったストームにあっても、ロイドはエースとして奮闘し続け、2023年シーズン終了後にはチームとの契約を延長して2025年まで残留する道を選択しました(結果的に翌オフに移籍となりましたが、それだけシアトルでロイドが重責を担っていた証と言えます)。
ストームで積み重ねた9年間での通算得点は3,000点を超え、同フランチャイズの歴代上位に名を連ねています。WNBAキャリア序盤から現在に至るまで、ロイドは攻守両面でチームを支える重要な役割を果たし、リーグ屈指のクラッチシューターとして数々の名勝負を演出してきました。
アメリカ代表での実績
ジュエル・ロイドは米国代表チームの一員としても輝かしい実績を残しています。
2021年開催の東京オリンピック(2020年大会)で女子バスケットボール金メダルを獲得したアメリカ代表のメンバーに選出され、主にバックアップガードとして全6試合に出場しました。
さらに2024年のパリオリンピックでも代表メンバーとなり、アメリカチームの金メダル連覇に貢献しています。オリンピックで2大会連続の金メダルに輝いたことで、ロイドは国際舞台でも確かな存在感を示しました。
オリンピック以外でも、2018年のFIBA女子バスケットボールワールドカップ(スペイン大会)および2022年大会(オーストラリア)でそれぞれ金メダルを獲得した米国代表チームの一員としてプレーし、世界タイトルを経験しています。
また、それ以前の若年カテゴリーから才能を発揮しており、2010年にはU17(17歳以下)女子ワールドカップで優勝、2014年にはロシアで開催されたFIBA 3×3(3人制)女子ワールドカップでも金メダルを獲得するなど、早くから国際大会での成功を積み重ねてきました。
このようにロイドは長年にわたりUSAナショナルチームの常連メンバーを務め、卓越した得点力と勝負強さでチームUSAの黄金期を支える一人として活躍し続けています。
大学時代(ノートルダム大学)
ロイドは名門ノートルダム大学で2012~2015年までプレーし、在学中から全米トップクラスの選手として頭角を現しました。
1年生の頃から主力として活躍し、3年生時(2014-15シーズン)にはチームを2年連続のNCAA女子トーナメント全国決勝に導いています。
在学最終年となった2015年にはシーズン平均19.8得点を記録し、その圧倒的なパフォーマンスが評価されてESPNが選出する年間最優秀選手(プレーヤー・オブ・ザ・イヤー)に輝きました。
また同じ2014-15シーズンにはACC(アトランティック・コースト・カンファレンス)の年間最優秀選手賞も受賞しており、AP通信やWBCA(全米バスケットボールコーチ協会)など各種団体からオールアメリカン(一年間の優秀選手)にも選出されています。
大学通算得点は1,909点に達し、これはノートルダム大学女子バスケットボール史上5番目に高い記録となりました。
ロイドは大学で数々のタイトルと栄誉を手にした後、学業を3年で終えて早期卒業し、2015年のWNBAドラフトにアーリーエントリーします(WNBAでは通常4年次終了後にドラフトエントリーする選手が多い中で、ロイドの早期プロ転向は注目を集めました)。
そして迎えた2015年ドラフトで全体1位指名を勝ち取り、プロへの華々しい一歩を踏み出したのです。
オフコートでの活動・影響力
コート上での実績と同様に、ロイドはオフコートでの社会的な活動や影響力の面でも高く評価されています。
彼女は幼少期に自身がディスレクシア(読字障害)であると診断された経験から、学習障害のある子どもたちを支援する活動に積極的に取り組んできました。
2016年にはニューヨークのタイムズスクエアにある超大型ビルボード広告にロイドが登場し、ディスレクシアへの理解促進キャンペーンの顔を務めています。
WNBAのスター選手が自らのディスレクシア体験を公に語り啓発に協力したことで、「自分と同じような困難を抱える人々に勇気を与えたい」というロイドのメッセージが全米中に発信されました。
また非営利団体「Eye to Eye」や「The Dyslexic Advantage」とパートナーシップを結び、学習障害のある学生とメンターを繋ぐプログラム支援やリソース提供を通じて、誰もが学びやすい環境作りに寄与しています。
さらに、社会正義や多様性への支援もロイドの重要なテーマです。
2020年のWNBAシーズンは人種差別への抗議活動がリーグ全体で行われましたが、ロイドも他の選手たちと共に「Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)」や「Say Her Name(彼女の名前を呼んで)」と書かれたTシャツをウォーミングアップで着用し、警察暴力で命を落とした黒人女性たちに対する社会的関心を喚起しました。
シアトルの本拠地には、翌2021年にストームが4度目の優勝を果たしたことを記念した大きな壁画が制作されましたが、そこにはロイドがバード、スチュワートと肩を並べて抗議Tシャツを着ている姿が描かれており、ロイドがチームと共に示した社会的メッセージもファンの記憶に刻まれています。
ロイドの影響力はスポーツ界の枠を超えており、故コービー・ブライアントから託された「ゴールド・マンバ」の愛称にもそれが表れています。
NBAのレジェンドであるブライアントは生前、ロイドの才能とメンタリティを高く評価し、彼女を「ブラックマンバ(自らの異名)」にちなむ「ゴールド(黄金)のマンバ」と呼びました。
ロイド自身もコービーを人生と競技の両面での師と仰いでおり、その“マンバメンタリティ”を受け継いでいるとされています。
このストイックさと勝利への貪欲さはロイドのプレースタイルに色濃く反映され、若い世代の選手たちにも刺激を与える存在となっています。
実際、ロイドはチームメイトや対戦相手からもリーダーシップとプロ意識の高さを尊敬されており、リーグのロールモデル(模範)として位置付けられています。
また、スポンサー活動や社会貢献との連携にも積極的です。
ロイドはナイキ(Nike)と契約するトップアスリートの一人であり、シグネチャーモデルに準ずるバスケットシューズがリリースされています。
2024年にはその最新モデル「Nike Air Zoom GT Cut 3」を活用して、自閉症スペクトラムへの啓発を目的とした特別デザインのシューズを発表しました。
これはロイドの親友の息子が自閉症と診断されたことをきっかけに企画されたもので、ロイド自身がその子供たち(友人の息子と娘)にシューズの色やデザインを考案させ、完成した特別仕様モデルを試合で着用することで「誰もが違いを認め合える社会」を呼びかけるメッセージとしています。
この取り組みにより売り出された限定シューズは即完売し、大きな反響を呼びました。
その他にも、WNBAと企業のコラボレーション企画に出演したり、地元コミュニティのバスケットボールクリニックで子どもたちを指導したりと、競技の枠を超えた発信にも努めています。
こうした活動の成果もあり、2024年にはシアトル・スポーツコミッションが選出する「女性スポーツスター・オブ・ザ・イヤー」にロイドが選ばれました。
これはシアトル地域全体で最も活躍した女子スポーツ選手に贈られる賞で、WNBA選手として初の快挙でした。
この表彰は、ロイドがコート上の成績のみならず、地域社会への貢献や女性スポーツ界への影響力においても傑出していることの証と言えるでしょう。
総括(2025年時点)
ジュエル・ロイドは2025年現在、WNBAを代表するトッププレーヤーの一人として揺るぎない地位を築いています。
シアトル・ストームで積み上げた実績と経験を糧に、ラスベガス・エーシズという新天地でもエースとしてチームを牽引し、再びチャンピオンシップを狙える立場にあります。
そのプレーは得点力・勝負強さ・リーダーシップのいずれにおいても卓越しており、リーグ内外から大きな注目を集めています。
ロイド自身、「キャリアを20年続けてスー・バードのような伝説になりたい」と語っており、今回の移籍を自らのキャリアの折り返し地点と捉えて更なる飛躍を目指しています。
実際、WNBA10年目を迎えた今も向上心は衰えず、進化し続けるプレースタイルでチームに新たな化学反応をもたらしています。オフコートでの社会的な影響力も含め、ロイドはまさに現代WNBAを象徴する存在として輝きを放っており、今後もリーグの顔の一人としてファンから熱い視線を注がれ続けることでしょう。
出典一覧:
- Kevin Pelton, ESPN「New Aces star Jewell Loyd on her legacy in Seattle」(2025年5月25日) – シアトルからラスベガス・エーシズへの移籍経緯や2025年シーズン序盤の活躍について
- シアトル・ストーム公式サイト「Jewell Loyd Named Seattle Women’s Sports Star of the Year」(2024年2月16日) – 2023年シーズンの成績(シーズン得点記録・得点王、オールスターMVP)および地域スポーツ賞受賞に関するニュース
- シアトル・ストーム公式サイト「Jewell Loyd Featured on 32-Story Times Square LED Billboards」(2016年3月9日) – ロイドがディスレクシア啓発キャンペーンに参加した際のプレスリリース
- Team USA公式サイト「Jewell Loyd – Profile」(2025年) – 米国オリンピック・パラリンピック委員会によるロイドのプロフィール(オリンピックでの成績、学習障害支援活動、「ゴールド・マンバ」の愛称由来などのクイックファクト)
- ノートルダム大学公式アスレチックスサイト「Jewell Loyd – Women’s Basketball Roster」 – 在学中の成績・受賞歴の詳細(2015年ESPN年間最優秀選手、ACC年間最優秀選手、オールアメリカン選出など)
- 英語版ウィキペディア「Jewell Loyd」 (最終更新 2025年5月) – WNBAでの受賞歴一覧(新人王、オールスター選出年、オールWNBAチーム、得点王など)および米国代表としての主な成績(オリンピック・ワールドカップの金メダル)
- The Next(女性バスケットボール専門メディア)「Behind Jewell Loyd’s player-edition shoes for autism awareness」(2024年) – ロイドによる自閉症啓発のための特別デザインシューズ企画に関する記事