ケイトリン・クラークを指導する上で、アイオワ大学の元ヘッドコーチ、リサ・ブルーダーが採った方法は実に興味深いものでした。なんと、フィル・ジャクソンがマイケル・ジョーダンを指導した際の経験を綴った1995年の名著「セイクレッド・フープス」を教科書として活用していたのです。
ブルーダーの夫デイビッドが「もう一度『セイクレッド・フープス』を読んでみたら?」と提案したのは、クラークがジュニアシーズンを迎えた頃でした。ブルーダーは本棚から黄色の蛍光ペンを手に取り、クラークの状況と重なる箇所にマーカーを引いていきました。
「マイケル・ジョーダンが抱えていた問題、フィルが彼を助けるために取り組んだことは、私がケイトリンを助ける必要があったことと同じでした」とブルーダーは語ります。
「無私の精神こそチームワークの魂」ジョーダンが学んだ教訓をクラークへ
ブルーダーが特に注目したのは2つの箇所でした。1つはジョーダンが自分自身とチームにかけるプレッシャーについて、もう1つはメディアからの批判への対処法でした。
アウェイゲームのホテルで、ブルーダーはクラークに本を手渡しました。「ここの部分を読んでみて」。クラークはジャクソンの言葉とジョーダンの経験に共感するだけでなく、そこから学ぶことができたのです。
ジャクソンが本の中で書き、ブルーダーがハイライトした言葉があります。「無私の精神こそチームワークの魂である」。この言葉こそ、ジョーダンを単なる得点マシンから究極のバスケットボール選手へと変貌させた哲学でした。
ブルーダーはこの教訓をクラークに伝えました。「本当に優れた選手の真の尺度は、周りの選手を良く見せる能力です。最高の選手として、あなたはチームをより良くしなければならない。なぜなら、あなたは『ケイトリン・クラーク』という存在だから。フィルがマイケルにやらせようとしたのも同じこと。チームに投資することです」
チームメイトへの不満から学んだ「招待の大切さ」
ある日、クラークはブルーダーに不満を漏らしました。チームメイトが自分ほどジムで時間を過ごしていないというのです。ブルーダーは即座に質問しました。「彼女たちをジムに誘った?」クラークの答えは「いいえ」でした。
この状況は、ジャクソンが書いたジョーダンの事例と酷似していました。ジョーダンもかつて、チームメイトの能力に疑問を抱いていたのです。
ブルーダーはクラークに言いました。「ケイトリン、あなたはこの重荷の大部分を背負わなければならない。マイケルもそうだった。偉大な選手はみなそうなのよ」
そして、もう一つ重要なアドバイスを送りました。「自分のことを話すのではなく、チームメイトについて話すようにしなさい。物理的に一緒に連れて行けなくても、あなたの言葉でチームメイトを引き上げることができるのよ」
ジャクソンの「信頼の輪」をアイオワ流にアレンジ
ジャクソンは、ジョーダンの「セレブリティとしての地位」がチームメイトから彼を孤立させていると考えていました。それを補うため、試合前に選手たちが輪になって心の内を共有する「信頼の輪」という儀式を作りました。
ブルーダーも独自の「サークルタイム」を練習の前後に取り入れていました。それは共有し、宣言し、つながり、聞く時間でした。これがクラークとチームメイトにとって特に重要な意味を持つようになりました。
「私たちのサークルはとても固い絆で結ばれていました」とブルーダー。「フィルも本の中でそれについて語っています。チームメイトはケイトリンを守りたがった。彼女を守ろうとした。そうなったとき、本当に特別なものが生まれるのです」
昨年のファイナルフォー後、クラークはブルーダーとチームメイトのハナ・ステュルケと一緒に部屋に入りました。ホークアイズはUConnを2点差で破り、全米選手権決勝に進出しましたが、クラークにとっては必ずしも素晴らしいパフォーマンスではありませんでした。
しかし、それでもチームは勝利しました。なぜなら、クラークは既にジョーダンが学んだ教訓を実践していたから。一人では成し遂げられないことを、チーム全体で成し遂げる術を身につけていたのです。
クラークが実践したジョーダンの教訓:
- チームメイトを信頼し、彼らに投資する
- メディアでの発言でチームメイトを称える
- 批判への対処法を学ぶ
- プレッシャーを一人で抱え込まない
- チーム文化の構築に積極的に参加する
現在WNBAのインディアナ・フィーバーで活躍するクラークは、これらの教訓を今も実践し続けています。彼女のリーダーシップスタイルには、明らかにジョーダンとジャクソンの影響が見て取れます。
ブルーダーは言います。「『セイクレッド・フープス』で最も重要なことは、マイケル・ジョーダンがいたことだけでなく、彼の周りに素晴らしいチームがあったということです」
クラークもまた、個人の才能だけでなく、チーム全体を高める能力を持つ選手へと成長しました。それは、かつてジョーダンが辿った道と同じ。歴史は繰り返すのかもしれません。ただし今度は、女子バスケットボール界で。
引用:WNBA

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