フェニックス・サンズが7月17日(水)、ブラッドリー・ビールの残り2年1億1000万ドルの契約をウェイブ&ストレッチしたことで、失敗に終わった「ビッグ3」実験に終止符が打たれました。
ケビン・デュラント、ビール、デビン・ブッカーの3人で年俸1億5000万ドル。サラリーキャップが1億4000万ドルの時代に、この賭けは無謀すぎました。そして今、私たちは問わなければなりません。
これは、チームが3人のマックス契約選手を集める「スーパーチーム時代」の終焉なのでしょうか?
目次
「第2エプロン」という新たな壁が全てを変えた
サンズの失敗を理解するには、NBA の新しい財政ルール「第2エプロン」を知る必要があります。
第2エプロンの制限:
- ドラフト、フリーエージェント、トレードでの柔軟性を大幅に制限
- 実質的に補強がほぼ不可能に
- ミニマム契約の選手しか獲得できない
サンズは3人のスターを獲得するために、ロスターの深さと全てのドラフト指名権を犠牲にしました。そして第2エプロンに達した後は、まともな補強ができなくなったのです。
結果?プレーオフ1回戦でスイープ負け。勝利数ゼロという屈辱的な終わり方でした。
15年前のヒートとは何が違ったのか?
2010年代初頭のマイアミ・ヒートは、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュの「ビッグ3」で2度の優勝を果たしました。なぜ彼らは成功し、サンズは失敗したのでしょうか?
2010年ヒートと2024年サンズの違い:
ヒート(2010年):
- 3人の合計年俸:4500万ドル
- 第2エプロンは存在せず
- リーグ全体の層が今より薄い
- 補強の自由度が高い
サンズ(2024年):
- 3人の合計年俸:1億5000万ドル
- 第2エプロンの厳しい制限
- リーグ全体の層が厚い
- 補強がほぼ不可能
時代が変わったのです。
セルティクスも「ビッグ4」を解体!5億ドルの現実
興味深いことに、2024年チャンピオンのボストン・セルティクスも、すでに方向転換を始めています。
ジェイソン・テイタムとジェイレン・ブラウンはそれぞれ3億ドル超の契約を結び、ジュルー・ホリデーとクリスタプス・ポルジンギスも年俸3000万ドル以上。この「ビッグ4」体制は、年俸総額5億ドルという天文学的な数字に達しました。
結果、セルティクスはホリデーとポルジンギスをトレード。ブラッド・スティーブンスGMは「第2エプロンのバスケットボール的ペナルティは現実的で、先月まで自分がどれほど理解していなかったか分からなかった」と告白しています。
未来のモデル:「2スター+バリュー契約」
では、これからのNBAはどうなるのでしょうか?答えは明確です。
新時代のチーム構築モデル:
- 高給取りのスーパースター2人
- その他は全てバリュー契約の選手で固める
- ドラフトとプレーヤー育成が最重要に
セルティクスは、テイタムとブラウンに、リーグ最高のバリュー契約を持つデリック・ホワイトを加えた「ビッグ3」を形成。これが新時代の標準となるでしょう。
サンダーの「自前育成ビッグ3」が示す理想形
オクラホマシティ・サンダーは、理想的な「ビッグ3」シナリオを実現しています:
サンダーの3人:
- シャイ・ギルジャス=アレクサンダー:4年2億8500万ドル(MVP)
- ジェイレン・ウィリアムズ:ルーキー契約からのマックス延長
- チェット・ホルムグレン:同じくルーキー契約からのマックス延長
3人とも自前でドラフト・育成した選手。しかし、彼らですら2026-27シーズンには合計1億2350万ドルとなり、第2エプロンの圧力を感じることになります。
なぜサンズは失敗したのか?3つの致命的ミス
1. スキルセットの重複 ブッカー、デュラント、ビールは全員が得点型の選手。役割が被りすぎていました。
2. 深さとドラフト権の犠牲 3人を獲得するために、将来性も現在の戦力も全て失いました。
3. 補強手段の喪失 第2エプロンに達した後は、ミニマム契約しか使えず、質の高い選手を獲得できませんでした。
それでも誰かが挑戦する…なぜなら誘惑が強すぎるから
論理的に考えれば、3人のマックス契約選手を集めるのは自殺行為です。しかし、GMたちは必ず誰かが再挑戦するでしょう。なぜなら、その誘惑があまりにも強いからです。
「もしかしたら、うちなら上手くやれるかもしれない」 「スキルセットが完璧に噛み合う3人を見つけられれば…」
しかし現実は厳しい。第2エプロン時代において、3人の高給取りスターを抱えてチャンピオンシップレベルのロスターを構築するには、以下が必要です:
- 全てのドラフトピックを的中させる
- 全てのミニマム契約選手が期待以上の活躍をする
- 怪我人が出ない
- 化学反応が完璧に機能する
この針の穴を通すような作業は、もはや現実的ではありません。
新時代の勝者と敗者
勝者:
- ドラフトと育成に長けたチーム
- 賢いサラリーマネジメントができるチーム
- 2スター体制で我慢できるチーム
敗者:
- 「ウィン・ナウ」モードで全てを賭けるチーム
- ドラフト権を軽視するチーム
- 第2エプロンを無視するチーム
サンズの失敗は、単なる一つのチームの失敗ではありません。これは時代の転換点を示す象徴的な出来事です。
レブロン、ウェイド、ボッシュから始まったスーパーチーム時代。それは第2エプロンという新しいルールによって、静かに幕を閉じようとしています。
これからのNBAは、より戦略的で、より忍耐強く、より賢明なチーム作りが求められる時代となるでしょう。派手さよりも堅実さ。スターの輝きよりもチームの深さ。
サンズの1億1000万ドルの損失は、高い授業料でした。しかし、それは全てのチームにとって貴重な教訓となったのです。

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