マイク・ブラウン

ニックスに懐かしのスパーズオフェンスを持ち込むマイク・ブラウン新HCの革新的挑戦

新時代の幕開けとブラウンの就任

2025年7月、ニューヨーク・ニックスはトム・ティボドーHCを解任し、NBAコーチ・オブ・ザ・イヤーを2度受賞したマイク・ブラウンを新ヘッドコーチに迎えました。ニックスは前シーズン51勝31敗で東地区3位となり、25年ぶりにイースタンカンファレンス・ファイナルに進出する快挙を成し遂げましたが、球団はさらなる飛躍のために大胆な決断を下したのです。

ブラウンは過去にクリーブランド・キャバリアーズ、ロサンゼルス・レイカーズ、サクラメント・キングスを率い、通算454勝304敗という輝かしい実績を誇ります。特に2022-23シーズンには、16年間プレーオフから遠ざかっていたキングスを48勝34敗に導き、NBA史上最も長いプレーオフ干ばつを終わらせ、全会一致でコーチ・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。また、ゴールデンステート・ウォリアーズのアシスタントコーチとして3つのチャンピオンシップリングを獲得した経験も持っています。

スパーズスタイルのオフェンス改革

ブラウンがニックスに持ち込もうとしているのは、2010年代のサンアントニオ・スパーズを彷彿とさせるオフェンススタイルです。ESPNのブライアン・ウィンドホーストは、自身のポッドキャスト「The Hoop Collective」で、ブラウンが練習で実践しているシステムについて興味深い観察を共有しました。

「ニックスは本当に2010年のスパーズスタイルのオフェンスをやっています」とウィンドホーストは語りました。「グレッグ・ポポビッチの0.5秒ルール、つまりボールを受け取ったら0.5秒以内にパスかシュートを決断するというルールです。それがニックスが練習でやっていることなのです」

この0.5秒ルールは、グレッグ・ポポビッチがスパーズで確立した伝説的なシステムの核心です。ブラウンはポポビッチの下で2000年から2003年までアシスタントコーチを務め、2003年のNBAチャンピオンシップを経験しました。その時に学んだ哲学を、今ニックスで実践しようとしているのです。

このシステムの本質は、素早いボールムーブメントと即座の意思決定にあります。2013-14シーズンのスパーズは「ビューティフル・ゲーム」と称される洗練されたオフェンスでマイアミ・ヒートを破り、チャンピオンに輝きました。その年、スパーズは1人もリーグのトップ40のスコアラーがいなかったにもかかわらず、ボールを次々と回すことで守備陣を翻弄し続けました。

ティボドー時代との対比

ティボドー時代のニックスは、スローで計算されたバスケットボールを特徴としていました。アイソレーションプレーが戦略の中心であり、スプレッド・ピックアンドロールを多用していました。ブラウンのアプローチは、この戦術を根本から変革するものです。

ブラウンは、ニックスが持つ豊富な攻撃スキルを活かし、守備側が次の展開を予測できないような自由な流れを作り出すシステムを目指しています。速いペースと継続的なボールムーブメントを重視し、選手たちに素早い判断力を求めます。

ブランソンへの影響と適応

この新システムで最も大きな変化を求められるのがジェイレン・ブランソンです。ティボドー時代、ニックスのオフェンスはブランソンを中心に回っており、彼は昨シーズンNBA8位となる1試合平均85.4回のタッチ数を記録していました。

ESPNのティム・ボンテンプスは、ブランソンが今後直面する挑戦について指摘しています。「ブランソンは素晴らしい選手であり、ニックスのオフェンスの焦点であり続けるでしょう。しかし、ブラウンはより速いペースでのプレーと、より多くのボールムーブメントをオフェンスに取り入れることについて話しています。一方ブランソンは、より遅いペースでのプレーを好む傾向があり、ティボドーの下では常にボールが彼の手にありました」

ブランソンは昨シーズン、平均26.0得点、7.3アシスト、2.9リバウンドを記録し、2度目のオールNBA選出を果たしました。彼にはオフボールでの脅威になる能力があり、ボールムーブメント重視のオフェンスで成功するための十分なパスセンスも持っています。しかし、ティボドーの下で大きく成長してきた彼が、自分を最大限に引き出してきたアプローチを大きく変えることには慎重にならざるを得ないでしょう。

カール=アンソニー・タウンズとの融合

ニックスの新システムにおけるもう一つの重要な要素が、カール=アンソニー・タウンズの存在です。タウンズは2024-25シーズン、ニックスでの1年目に平均24.4得点、12.8リバウンド、3.1アシストを記録し、5度目のオールスター選出と3度目のオールNBA選出を果たしました。

タウンズはブランソンと共に、ニックスに2人の高効率なスコアラーをもたらしました。これにより、守備側はどちらか一方に集中することができなくなりました。ブラウンの速いペースとボールムーブメントを重視するシステムは、タウンズのような多才な選手にとって理想的な環境となる可能性があります。

タウンズは2024-25シーズン、直接ドライブで1.21ポイントをあげNBA7位にランクインし、ピック&ポップセットでも優れたパフォーマンスを見せました。ブラウンのシステムでは、このような多様性を持つ選手が、より自由に動き、より多くの選択肢を持つことができるでしょう。

ゴールデンステートでの学び

ブラウンは、2016年から2022年までゴールデンステート・ウォリアーズでアシスタントコーチを務め、スティーブ・カーの下で3つのチャンピオンシップを獲得しました。ニックスがお手本にしたいチームの一つが、まさにこのウォリアーズです。

ウォリアーズは、モーションとパスを中心とした独特のオフェンスを展開し、「団結の力」という哲学を掲げています。ティボドーの2つの大きな弱点は、やや停滞気味のオフェンスとベンチの活用を躊躇する傾向でしたが、ウォリアーズはその対極にあるチームでした。

ブラウンは、ゴールデンステートで学んだ教訓をサクラメントで実践し、キングスをNBA史上最も効率的なオフェンスの一つに導きました。2022-23シーズン、キングスはプレーオフ第1ラウンドでウォリアーズと対戦し、第7戦まで戦いました。もしデアーロン・フォックスの手の怪我がなければ、あのシリーズを制していたかもしれません。

チャンピオンシップへの道

ニックスは新シーズンに向けて、チャンピオンシップの獲得という明確な目標を掲げています。ブラウンの新しいスタイルが、その目標に近づくための手段となるなら、ロスター内の誰もが変化に抵抗することはないでしょう。

ブラウン自身も、ニックス就任の記者会見で、この挑戦への意気込みを語りました。「私の期待値は誰よりも高い。ニックスだからこそ、マディソン・スクエア・ガーデンという象徴的な場所があり、素晴らしいファンがいます。それに伴う期待を愛し、受け入れています。楽しみにしています」

ニックスのプレジデント、レオン・ローズも、ブラウンの起用について自信を示しています。「マイクはスポーツ界で最大のステージでコーチングを行ってきました。彼はチャンピオンシップの経験を私たちの組織にもたらします。NBAファイナルでベンチを率いた経験、アシスタントコーチとして4つのタイトルを獲得した経験、そして選手を成長させ、育成する能力は、ファンのためにニューヨークにチャンピオンシップをもたらすという目標達成に役立つでしょう」

今後の展望

ブラウンのシステムが定着すれば、ニックスは今シーズン、見ていて非常に楽しいチームになる可能性があります。速いペース、継続的なボールムーブメント、そしてすべての選手が関与する流動的なオフェンスは、マディソン・スクエア・ガーデンのファンを熱狂させることでしょう。

もちろん、新しいシステムへの適応には時間がかかります。特にブランソンのような、これまでのスタイルで大きな成功を収めてきた選手にとって、変化は容易ではありません。しかし、チーム全体がブラウンのビジョンを信じ、実践していけば、ニックスは東地区で最も手ごわい相手の一つとなるでしょう。

ブラウンは、キングスでの経験から、若くて才能のある選手たちと仕事をすることの喜びを知っています。ニックスには、ブランソン、タウンズ、ミカル・ブリッジス、OG・アヌノビー、ジョシュ・ハートという強力なコアがあります。この才能あるロスターと、ブラウンが持ち込む洗練されたシステムが融合すれば、ニックスの1973年以来となるチャンピオンシップ獲得も夢ではなくなります。

ポポビッチの0.5秒ルールが、マディソン・スクエア・ガーデンで新たな息吹を吹き込む日が来るのか。ニックスファンにとって、今シーズンは期待と興奮に満ちたものとなりそうです。

引用:yardbarker

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