アリッサ・トーマス

「彼女は笑いながら悪態をつく」―WNBAファイナルで見せるアリッサ・トーマスの狂気じみた勝負魂

フェニックス・マーキュリーが0勝2敗と絶体絶命の状況に追い込まれたWNBAファイナル。この危機を打開できるとすれば、それはアリッサ・トーマス以外にいないだろう。彼女の競争心は、ケビン・ガーネットにも匹敵すると評される。

トーマスは今プレーオフで平均18.1点、8.6リバウンド、9.1アシスト、1.8スティールを記録する「ポイントフォワード」として活躍していますが、数字以上に重要なのは、彼女が持つ尋常ではない勝利への執着心です。

NBAの伝説と比較される競争心

マーキュリーのヘッドコーチ、ネイト・ティベッツは、トーマスについてこう語ります。「彼女は究極の競争者です。私の人生で、彼女ほど勝ちたいと思っている人間を見たことがありません」

ティベッツはNBAで8年間、デイミアン・リラードのアシスタントコーチを務めた経験があります。リラードのリーダーシップは最高レベルだと認めながらも、「競争心という点では、ATは別次元にいる」と断言しました。

さらに彼が唯一比較できると感じたのは、史上最高のパワーフォワードの一人とされるケビン・ガーネットでした。「若手コーチ時代、ミネソタ・ティンバーウルブズのトレーニングキャンプでKGを見る機会がありました。彼のアプローチはATに似ています。どんなドリルでも、オフェンスでもディフェンスでも、ウォームアップでさえも、勝つためなら何でもする。それが彼女を特別にしているのです」

両肩の靭帯断裂を抱えながらプレー

トーマスの凄まじさは、その身体的ハンディキャップを知るとさらに際立ちます。彼女は2015年に右肩、2017年に左肩の関節唇を断裂して以来、手術を受けずにプレーを続けています。

この怪我により、トーマスは3ポイントシュートをほとんど打てません(キャリア通算26本中2本成功)。フリースローでさえ困難で、キャリア成功率は65.1%にとどまります。可動域が制限されているため、もともと左利きだった彼女は右手でシュートを打つように変更せざるを得ませんでした。

睡眠も満足に取れないといいます。肩に負担がかかるため、快適に眠ることができないのです。

それでもトーマスは手術を選びません。理由は、手術とリハビリにアキレス腱断裂よりも長い時間がかかると聞いたからです。実際、彼女は2022年1月にアキレス腱を断裂し、8ヶ月のリハビリを経験しています。その苦しみを知っているからこそ、さらに長期離脱する手術は避けているのです。

コネチカット・サン時代のストレングスコーチ、アナリッセ・リオスは「ATはスーパーヒューマンか、どこかバイオニックなのでしょう。関節唇の役割を代わりに担う安定筋が発達しているんです」と驚きを隠しません。

トリプルダブルの女王

身体的制約がありながら、トーマスはWNBA史上最多となる24回(カウント中)のトリプルダブルを記録しています。これは、WNBA史上全58回のトリプルダブルのうち41%を占める圧倒的な数字です。

2025年シーズンだけで7回のトリプルダブルを達成し、シングルシーズン記録を樹立。史上初の3試合連続トリプルダブルも達成しました。プレーオフでのトリプルダブルは5回で、これもリーグ記録です。

特筆すべきは、ディフェンディングチャンピオンのニューヨーク・リバティを破った第1ラウンドGame 3での20点超えトリプルダブル。プレーオフ史上初の快挙でした。トーマスは20点、11リバウンド、11アシストを記録し、マーキュリーを準決勝に導きました。

リバティのブリアナ・スチュワートは試合後、「ATは信じられない選手です。彼女をガードするのは悪夢でした。他のチームも同じ思いをするでしょう」とコメントしています。

リーグ最強のトラッシュトーカー

The Athleticが今シーズン実施した匿名選手投票で、トーマスは「最大のトラッシュトーカー」に選ばれました。33人中13人が彼女に投票し、2位のコートニー・ウィリアムス(5票)に大差をつけての圧勝でした。

この称号は、引退前のダイアナ・タウラジが保持していたものです。

ある選手は匿名でこう語りました。「彼女は笑いながら悪態をつくんだ。それが狂気じみている。彼女はクレイジーだよ」

トーマス本人はこの称号を誇りに思っており、オールスターウィークエンドで「このタイトルを誇りに思います。私は間違いなくトップですね。ファンも選手もコーチも、誰も容赦しません」と堂々と宣言しました。

最近では、チームメイトのカリーア・カッパーが飛行機内でUNOをやろうと提案した際、「トーマスがほとんどXを見ないから良かった」とツイート。するとトーマスは即座にログインして「チームで一番UNOが強いのは私よ」と反論。記者会見でもこの話題が取り上げられ、会場を沸かせました。

幼少期から培われた勝負魂

この競争心は、WNBAに入る前からのものです。トーマスは「両親との幼少期のゲームから始まりました。トラブルゲームでもキャンディランドでも、勝つためには努力が必要でした。だから両親に勝てたときは本当に嬉しかった」と振り返ります。

準決勝でミネソタ・リンクスのスター、ナフィーサ・コリアーとのマッチアップについて聞かれたトーマスは、一言でこう答えました。

「彼女も私をガードしなきゃいけないんだから。問題ないわ」

この自信。この姿勢こそが、トーマスをトーマスたらしめているのです。

エーシズの壁を破れるか

ティベッツコーチは「ATを抑えようとするな。彼女は彼女のままでいい。だから私たちは彼女を愛しているし、彼女があれだけの選手でいられるのです。オフィシャルが『彼女はフィジカルすぎて判定しづらい』と言うのには失望します。そうです、ATはATです。私たちは彼女にそのダウンヒルの力でプレーしてほしいのです」と語ります。

エーシズの4度のMVP、エイジャ・ウィルソンも、トーマスとの対戦を楽しみにしています。「ATと対戦するのはいつも楽しい。彼女はゲームをファシリテートできる選手で、私が毎日ガードするタイプではありません。彼女のビジョン、チームメイトをオープンにする方法は、彼女がこのポジションでもたらす特別なものです」

マーキュリーは今、シーズンを通じてアンダードッグとして戦ってきました。タウラジとブリトニー・グライナーという2大レジェンドを失い、多くの人に過小評価されながらも、ここまで勝ち上がってきたのです。

その中心にいるのが、両肩を壊しながらも笑顔で悪態をつき、トリプルダブルを量産し、誰にも屈しない闘志を持つアリッサ・トーマスです。

0-2からの逆転は困難です。しかし、もし誰かがそれを成し遂げられるとすれば、それはこの「狂気」を持った選手なのかもしれません。Game 3は日本時間10月9日午前10時開始。トーマスの狂気がどこまでエーシズを追い詰めるのか、注目です。


引用: cbssports

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