究極の信頼が生んだ劇的な勝利
WNBAファイナル2025、第3戦。残り0.3秒、88-88の同点。この緊迫した場面でベッキー・ハモン・ヘッドコーチが下した決断は、驚くほどシンプルでした。タイムアウトから戻ったハドルで彼女が放った言葉は、「エイジャにボールを渡して、邪魔にならないようにする」。それだけでした。
この信頼関係こそが、ラスベガス・エーシズを4年で3度目の優勝へと導く原動力となっています。
直近の成績:エイジャ・ウィルソンの圧倒的支配力
第3戦でのエイジャ・ウィルソンのパフォーマンスは、まさに「MVP」という称号に恥じないものでした。34得点、14リバウンド、4アシスト、3ブロック。20本中11本のシュート成功率55%という高効率で、試合を通じて両エンドで圧倒的な存在感を示しました。
特筆すべきは、彼女がWNBAファイナル史上初めて達成した記録です。3試合連続で25得点以上かつ10リバウンド以上という偉業は、現代バスケットボールにおけるインサイドプレーヤーの価値を改めて証明しました。さらに、プレーオフ通算9回目の30得点ゲームは、WNBA歴代最多記録です。
エーシズはこの試合を90-88で制し、シリーズを3-0としました。第1戦は89-86、第2戦は91-78と、いずれもホームで勝利を収めていましたが、第3戦はフェニックスの敵地での勝利でした。ホームコートアドバンテージを完全に奪った形です。
過去との比較:「信頼」が生み出すチーム文化
ハモンHCがウィルソンに絶対的な信頼を置くのは、今に始まったことではありません。2022年、2023年と優勝を果たしてきたエーシズの強さの根幹には、明確な役割分担と、勝負所で誰にボールを持たせるべきかという共通認識があります。
今回の場面を振り返ると、エーシズは残り20秒を切った状態でボールを保持していました。ハモンHCは当初、選手たちに自由にプレーさせていました。しかし、攻撃が停滞し始めると、彼女は躊躇なく残り5秒でタイムアウトを要求しました。この判断の速さと的確さが、チャンピオンシップチームの証です。
タイムアウト後、ウィルソンはエルボー付近でボールを受け取り、ドライブを試みました。しかし、マーキュリーのディフェンスは複数人でカバーに来ました。そこでウィルソンはスピンして後方に下がり、アリッサ・トーマスとデワンナ・ボナーの上からフェイダウェイジャンパーを放ちました。ボールはリングを通過し、残り時間は0.3秒。敵地のアリーナは静まり返りました。
過去のWNBAファイナルを振り返ると、こうした「エース一人に全てを託す」戦術は必ずしも成功してきませんでした。ディフェンスが集中し、プレッシャーが極限まで高まる中で、個人技だけで突破するのは至難の業だからです。しかし、ウィルソンは4度のMVPを獲得しているだけあり、そのクラッチ能力は別格でした。
ハモンHCはWNBAファイナルでの通算成績が9勝2敗となり、勝率はリーグ史上最高を記録しています。Game 1ではゾーンディフェンス、Game 2ではジャッキー・ヤングを解放、Game 3ではウィルソンへの最終プレー。全ての采配が的中しています。
今後の展望:マーキュリーに残された険しい道のり
今年のWNBAファイナルは、史上初めて7戦制で行われています。つまり、フェニックス・マーキュリーにはまだ理論上の可能性が残されています。しかし、0-3からの4連勝は、どのプロスポーツにおいても極めて困難です。WNBA史上、このような逆転劇は一度も起きていません。
マーキュリーにとって唯一の希望は、第4戦が再びホームで行われることです。第3戦では第4クォーターに猛烈な追い上げを見せ、17点差を逆転して同点に追いつきました。デワンナ・ボナーが25得点10リバウンド、カリーヤ・カッパーが17得点と奮闘しましたが、最後の最後で及びませんでした。サトゥ・サバリーは試合終盤に頭部を強打して退場しており、脳震とうの疑いで評価中のため、第4戦への出場が不透明なのも不安材料です。
一方、エーシズは過去2ヶ月でわずか3敗という驚異的なペースで勝ち続けています。シーズン序盤は調子が上がりませんでしたが、中盤以降は別のチームのように強さを増しました。ウィルソンを中心とした攻守のバランス、ジャッキー・ヤング(21得点、9アシスト)やチェルシー・グレイといったベテランの安定感、そしてベンチからの得点力。全てが噛み合っています。
ハモンHCの試合後のコメントも印象的でした。「エイジャにボールを渡して邪魔するな。それが全てです」というシンプルな哲学は、複雑な戦術を超越した信頼関係を物語っています。ウィルソン自身も「あの瞬間、ベッキー(ハモン)の下でGame 3に勝ったことがなかった。これは私たちにとって必ず勝たなければならない試合でした」と語り、自らの責任を理解していました。
第4戦は金曜日、フェニックスで行われます。マーキュリーにとっては背水の陣、エーシズにとっては4年で3度目の栄冠を手にする絶好の機会です。果たして歴史は動くのか、それともエーシズが王朝を築き続けるのか。注目が集まります。
引用: yardbarker

WNBA FAN BLOG運営者/バスケットボールジャーナリスト
WNBA・NBAをこよなく愛し、バスケットボール歴30年以上。特にWNBAの魅力を日本に広げるため、2025年5月に WNBA FAN BLOG をスタートしました。試合結果や選手情報だけでなく、独自の視点による戦術分析や選手インタビュー、海外ニュースの速報翻訳まで幅広くカバーしています。
現在、日本国内では数少ないWNBA専門メディアとして、最新ニュースをどこよりも速く正確にお届けすることをミッションにしています。
得意分野
試合分析・戦術解説
選手のデータ分析(EFF、PER など)
海外ニュース速報翻訳(英語 → 日本語)
サイト目標
日本最大の WNBA 情報ポータルサイト構築
日本のバスケットボールファンコミュニティ作り
関連 SNS アカウント
X(Twitter):@WNBAJAPAN
フォローしてWNBA の最新情報をキャッチしてください!