2026年、WNBAに新たな2チームが加わります。トロント・テンポとポートランド・ファイアの誕生により、リーグ史上最大規模のエクスパンションドラフトが実施される見込みです。そして、この制度変更が最も影響を受けるのは、皮肉にもリーグ最強の座に君臨するラスベガス・エーシズかもしれません。
ESPNが発表した早期予測によると、エーシズのコア(エイジャ・ウィルソン、ケルシー・プラム、ジャッキー・ヤング、チェルシー・グレイ)は安泰とされています。しかし、本当の問題はその「一つ下の層」にあります。プレーオフで勝敗を分ける6番手、7番手の存在。これこそが、エクスパンションドラフトで狙われる可能性が高い選手たちなのです。
エクスパンションチームが求める「2つの条件」
新規参入チームがドラフトで重視するのは、即戦力性と契約のコントロール性です。数字だけでは測れない価値がここにはあります。生産性が高くても契約状況が不安定な選手より、安定した契約で成長余地のある選手の方が魅力的に映るのがエクスパンションドラフトの特性です。
この観点からエーシズのロスターを分析すると、リスクの高低が明確に見えてきます。
低リスク:ダナ・エバンスとミーガン・グスタフソン
ダナ・エバンスは2025年シーズン、17.7分の出場で平均6.6得点、2.2アシストを記録しました。3ポイント成功率36.6%という数字も光ります。ウィルソンがファイナル第1戦後に語った通り、彼女はチームの「バッテリー」として違うペースをもたらす存在です。
しかし、エバンスは制限なしフリーエージェントに向かっています。エクスパンションチームが指名しても、すぐに他チームへ移籍される可能性があるため、ドラフトでの価値は限定的です。
ミーガン・グスタフソンも同様の状況にあります。20試合で平均11.3分出場、3.0得点、3ポイント成功率33.3%。ビッグマンながらスペーシングができる貴重な存在ですが、FA状況がネックとなりドラフトでの優先度は下がります。
中リスク:キア・ストークスとシャイアン・パーカー=タイアス
キア・ストークスは「即戦力」という意味では最も分かりやすい選手です。40試合出場、平均12.9分で3.6リバウンド。ディフェンス、スクリーン、リバウンドという地味ながら不可欠な役割を、ボールタッチなしでこなせます。ベッキー・ハモンHCが「プロ中のプロ」と評した練習姿勢も魅力です。新チームが「今すぐ使える選手」を求めるなら、ストークスは理想的な補強対象となります。
シャイアン・パーカー=タイアスは異なるタイプのリスクを持っています。2025年シーズンは怪我の影響でわずか2試合、7.0分の出場に留まりました。しかし、エクスパンションチームはフロントコートのサイズを常に求めています。ポテンシャルは高いものの、確実性に欠けるのが現状です。
最高リスク:アリーヤ・ナイとキアスタン・ベル——エーシズが迫られる究極の選択
ここからが本題です。リーグが各チームに5人のプロテクト枠を設定した場合、エーシズは難しい決断を迫られます。
アリーヤ・ナイは契約のコントロール性で優位に立ちます。44試合出場、平均15.3分で3.8得点。安定したベンチワークを提供し続けました。ハモンHCは「彼女が出場時間を得るのは、毎回全力でプレーするから」と評しています。若くて契約が残っている選手——これはエクスパンションチームにとって最も魅力的な条件です。
一方、キアスタン・ベルは「プレーオフでの信頼」という別の価値を持ちます。35試合出場、平均12.2分で4.2得点という数字以上に、重要な場面での起用実績があります。8月にはスターターに抜擢され、ハモンHCは「彼女は我々のシステムを最もよく理解している」と語りました。年齢的な伸びしろと両面での貢献——これもまた、新チームが欲しがる条件に合致します。
エーシズが直面する「見えないリスク」
エーシズのコアが守られるのは間違いありません。問題は、プレーオフ経験を通じて築かれた「信頼の層」が剥がされた時に何が起こるか、です。
WNBAのシーズンは短く、トレードデッドラインでの補強にも限界があります。仮にナイやベルがエクスパンションドラフトで引き抜かれた場合、その穴を埋めるには丸1シーズンかかる可能性があります。それは王朝の崩壊ではなく、優勝確率の微細な低下——しかし、接戦のプレーオフでは、その「微細な差」こそが全てを決めるのです。
2022年、2023年と連覇を果たし、2024年、2025年もファイナルに進出したエーシズ。彼女たちの強さは、スター選手だけでなく、その周りを固める選手たちの成熟度にも支えられています。エクスパンションドラフトは、まさにその成熟度を狙い撃ちにする制度なのです。
引用: yardbarker

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