オクラホマシティ・サンダーが、ジェイレン・ウィリアムズと5年最大2億8700万ドル(約430億円)の延長契約に合意しました。チェット・ホルムグレンの5年最大2億5000万ドル、シェイ・ギルジャス=アレクサンダーの4年2億8500万ドルと合わせ、主力3選手に総額8億2200万ドル(約1233億円)という巨額の新規マネーを投じたサンダー。しかし、皮肉なことに、他チームを苦しめるNBAの新ルール「セカンドエプロン」が、このチームの王朝構築をむしろ後押しする可能性が浮上しています。
68勝チームが全員20代中盤という恐怖の事実
まず認識すべきは、サンダーの異常なまでの完成度と若さです。昨季68勝を挙げ、NBAシングルシーズン史上最高の得失点差を記録したチーム。その主力3選手は全員が23歳から26歳の間で、少なくとも2030-31シーズンまで契約で縛られています。
この事実だけでも他チームにとっては悪夢ですが、さらに恐ろしいのは、王朝の形成を阻止するために導入された「セカンドエプロン」という新ルールが、逆にサンダーを助ける可能性があることです。
セカンドエプロンとは、ラグジュアリータックスラインの約10%上(2024-25シーズンは1億8893万ドル)に設定された給与閾値で、これを超えるチームには以下のような厳しい制限が課されます:
- ミッドレベル例外条項の使用禁止
- トレードでの複数選手の合算禁止(1対1のトレードのみ可能)
- トレードで送り出す以上の給与を受け取ることが不可
- 7年後のドラフト1巡目指名権の凍結
- 4年間で2回セカンドエプロンを超えた場合、その指名権は自動的に30位に転落
なぜサンダーには「痛くも痒くもない」のか
ここで重要なのは、これらの制限がサンダーにとってほとんど影響がないという点です。その理由を詳しく見てみましょう。
1. 外部からの補強が不要な完成度 すでに歴史的な強さを誇るサンダーは、外部から高額選手を獲得する必要がありません。ミッドレベル例外条項が使えなくても、トレードで給与を合算できなくても、今のロスターで十分に優勝を狙えます。
2. ドラフトピックの山 サンダーは他チームから獲得した未来のドラフト指名権を大量に保有しています。自チームの2030年代の指名権が30位に落ちても、他チームから獲得した指名権でカバーできます。通常のチームなら致命的な制裁も、サンダーにとっては「必要経費」程度の影響しかありません。
3. 若手育成サイクルの確立 「ドラフト→育成→活躍→トレードで指名権獲得→再びドラフト」という自己完結型のサイクルを確立。高額になったベテランを放出し、新人に入れ替えることで、常に給与を抑えながら競争力を維持できます。
ライバルチームが直面する「地獄のジレンマ」
一方、サンダーに追いつこうとする他チームは、セカンドエプロンによって手足を縛られます。
例えば、昨季ウエスタン・カンファレンスファイナルでサンダーに敗れたティンバーウルブズ。ジュリアス・ランドルとナズ・リードを維持したことでセカンドエプロン付近まで給与が膨らみ、ニッケル・アレクサンダー=ウォーカーの放出を余儀なくされました。トレード可能な指名権も枯渇し、サンダーとの差を埋める補強は事実上不可能です。
キャバリアーズは現在セカンドエプロンを2000万ドル超過しており、シックスマン賞候補のタイ・ジェロームを失いました。レブロン・ジェームズとのトレードを望んでも、給与制限により実現不可能です。
ナゲッツは、セカンドエプロンを理由にケンテイビアス・コールドウェル=ポープを失い、それが2025年のプレーオフでサンダーに敗れる一因となりました。
2026-27シーズンから始まる「税金地獄」の現実
とはいえ、サンダーも完全に無傷というわけではありません。2026-27シーズンからはラグジュアリータックスの支払いが避けられなくなり、リピーター税(4年間で3回以上タックスを支払った場合の追加税)の恐怖が待ち受けています。
リピーター税の税率は通常の3倍。最高税率帯では1ドルの支出に対して7.25ドルの税金が課されます。仮にキャバリアーズ並みの給与総額(約2億2600万ドル)でリピーター税対象となれば、税金だけで2億2600万ドル、総支出は4億5000万ドル超という天文学的な数字になります。
しかし皮肉なことに、このルールは大市場の金満オーナー(ウォリアーズのジョー・レイコブ、ネッツのジョー・ツァイ、クリッパーズのスティーブ・バルマー)を狙い撃ちにするために作られたもの。小市場のサンダーが最初の「犠牲者」になる可能性があるのは、なんとも皮肉な話です。
2028-29シーズンが運命の分かれ道
現在のCBA(労使協定)は2028-29シーズン後にオプトアウト可能で、その時点でルールが大幅に変更される可能性があります。つまり、サンダーは本格的な制裁を受ける前に、現行ルールが変わるかもしれません。
仮にルールが継続しても、サンダーのオーナーシップがどこまで税金を支払う覚悟があるかが鍵となります。2012年、同じくサンダーは税金を恐れてジェームズ・ハーデンを放出し、王朝構築の機会を逃しました。しかし今回は、長年の準備期間を経て、オーナーシップも覚悟を決めている可能性があります。
結論として、セカンドエプロンはサンダーの王朝形成を阻止するどころか、ライバルチームの追撃を困難にすることで、むしろサンダーの支配を長期化させる可能性があります。持続的な支配を防ぐために作られたルールが、逆に一強体制を生み出すという皮肉な結果を招く可能性がある。これこそが、NBAが直面する最大のパラドックスかもしれません。
引用:CBSSPORTS

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