ペイジ・ブッカーズ

【検証】4ポイントショットはバスケットボールを壊すのか?WNBAオールスターから世界各地の実験が示す未来

2025年WNBAオールスターゲームで、両チームが前半だけで36本もの4ポイントショットを放ちました。ナフィーサ・コリアーは2本成功させ、36得点の新記録に貢献。しかし、試合後にペイジ・ブッカーズが放った「両チームにとって、バスケットボールのdisturbing(見るに堪えない)な実演だった」という皮肉は、この新ルールが抱える根本的な問題を鋭く突いています。

4ポイントショットは本当にバスケットボールを「壊す」のでしょうか?WNBAオールスター、そして世界各地で行われている実験から、その答えを探ります。

WNBAオールスターの「実験」が示した光と影

WNBAは2022年のオールスターゲームで初めて4ポイントショットを導入し、2025年も継続しました。リムから28フィート(約8.5メートル)の位置に設置された4つのサークルから放たれるショットは、確かに観客を沸かせました。

2025年オールスターの4ポイントショット統計

  • 前半だけで36本の試投
  • コリアーが2本成功(全体で36得点の新記録)
  • チーム・コリアーが151点(史上最多得点)

しかし、この「成功」の裏には深刻な問題が潜んでいます。ディフェンスの希薄化、戦術の単純化、そして何より「これはバスケットボールなのか?」という根本的な疑問です。

MTVが予言した悪夢?「ロックンジョック」の教訓

実は、この議論は新しいものではありません。1990年代、MTVの「ロックンジョック・バスケットボール」は、エンターテインメント性を追求した結果、バスケットボールの本質を見失った前例として記憶されています。

ロックンジョックの「革新的」ルール

  • 25フィートの高さに設置された25点バスケット
  • 50点ショットの導入
  • セレブリティとプロ選手の混合チーム

最初は話題を呼んだこのイベントも、1997年に終了。理由は明白でした。「誰も25点バスケットに向かってボールを投げ上げ、外し続ける姿を見たくなかった」のです。

ある批評家は警告しています。「4ポイントショットが導入されれば、JR・スミスのような選手が肩が壊れるまで4ポイントを打ち続けるだろう。ボールがバックボードやリムに当たる音が観客の耳を苦しめ、ノイズキャンセリングヘッドフォンが必需品になる」

Big3リーグの「成功」は本当に成功なのか

一方、アイス・キューブが設立したBig3リーグは、2017年の創設時から4ポイントショットを採用し、「成功例」として挙げられることがあります。

Big3の4ポイントショット実績

  • 30フィート(約9.1メートル)からのショット
  • マイク・ビビーが初年度に6本成功(40%の成功率)
  • ジョー・ジョンソンが1シーズンで4本成功(うち2本がゲームウィナー)

しかし、Big3は3対3の特殊なフォーマットであり、フルコートの5対5とは根本的に異なります。さらに、元NBAスター選手たちのノスタルジックな要素も大きく、純粋な競技としての評価は定まっていません。

フィリピンPBAの大胆な実験と現実

アジア最古のプロバスケットボールリーグであるフィリピンPBA(Philippine Basketball Association)は、2024年に正式に4ポイントショットを導入しました。27フィート(約8.2メートル)からのショットが4点となるこのルールは、視聴者増加と試合の興奮度向上を狙ったものでした。

PBAの4ポイントショット導入後の現実

  • 12試合で138本の試投、成功率21.7%(30本成功)
  • 通常の3ポイントは34.4%の成功率
  • ジャスティン・ブラウンリーが1試合で5本成功(PBA記録)

しかし、現場の声は複雑です。ジネブラのティム・コーンHCは「ゲームは4ポイントショットよりもっと多くの要素で構成されている。カッティング、スクリーン、ディフェンス、パスの能力がある」と指摘。ブラックウォーターのジェフリー・カリアソHCも「特定の選手には武器になるが、全員のためのものではない」と慎重な姿勢を示しています。

バスケットボールの「本質」は何か

4ポイントショットを巡る議論の核心は、「バスケットボールの本質とは何か」という問いです。

支持派の主張

  • 観客の興奮度向上
  • 大逆転の可能性増大
  • 選手のシューティングレンジ拡大
  • 新たな戦術の開発

反対派の懸念

  • ディフェンスの軽視
  • チームプレーの崩壊
  • 基本技術の軽視
  • 「シュートコンテスト」化への危惧

WNBAオールスターでの151-131というスコアは、確かに「エキサイティング」でした。しかし、それは本当にバスケットボールと呼べるものだったのでしょうか?

結論:イノベーションか、それとも破壊か

4ポイントショットは、バスケットボールを「壊す」のではなく、「変える」可能性を持っています。問題は、その変化が望ましいものかどうかです。

WNBAがオールスターという「実験場」で試みているうちは良いでしょう。しかし、もしこれがレギュラーシーズンに導入されれば、ゲームの本質は確実に変わります。フィリピンPBAの例が示すように、実際の競技での導入は予想以上に複雑な影響をもたらします。

バスケットボールは常に進化してきました。24秒ショットクロックも、3ポイントラインも、かつては「ゲームを壊す」と批判されました。しかし、4ポイントショットは、これまでの変化とは質的に異なるかもしれません。

ブッカーズの「disturbing」という言葉は、単なる皮肉ではなく、警告として受け止めるべきでしょう。エンターテインメントと競技性のバランスをどう取るか。それが、現代のプロスポーツが直面する永遠の課題なのです。

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