2025年WNBAファイナルが10月3日に開幕します。ラスベガス・エーシズとフェニックス・マーキュリーによる砂漠の決戦は、WNBA史上初めて7戦制で行われる歴史的なシリーズとなります。連覇を狙うエーシズと、11年ぶりの王座奪還を目指すマーキュリー。両チームの対照的な道のりと、勝敗を分けるポイントを分析します。
目次
エーシズの圧倒的な経験値とウィルソンの覇権
ラスベガス・エーシズは、この4年間で3度目のファイナル進出を果たしました。レギュラーシーズンを30勝14敗で終え、プレーオフ直前には驚異の16連勝を記録するなど、王者としての貫禄を見せつけました。
しかし、プレーオフではその道のりは決して平坦ではありませんでした。1回戦では第7シードのシアトル・ストームに74-73という際どい勝利で辛くも勝ち越し、準決勝では第6シードのインディアナ・フィーバーに第1戦を落とすという波乱含みのスタートとなりました。第5戦では延長戦の末107-98で勝利しましたが、怪我や反則トラブルで主力を欠いたフィーバー相手に苦戦したことは、懸念材料として残ります。
それでも、エーシズが持つ最大の武器は経験です。チェルシー・グレイとエイジャ・ウィルソンは共にファイナルMVPの実績を持ち、プレッシャーのかかる場面での対応力は他の追随を許しません。特にウィルソンは2025年シーズンMVPを獲得し、平均20得点以上、9リバウンド、2.3ブロックという圧倒的なスタッツを記録しました。
プレーオフでのウィルソンの存在感はさらに増しており、彼女が25得点以上を記録した試合ではエーシズは4勝1敗、25得点未満では1勝2敗という明確な傾向があります。準決勝第5戦では35得点を叩き出し、プレーオフのシリーズ決定戦で35得点以上を記録したのはWNBA史上3度目という快挙を達成しました。ウィルソンのプレーオフ使用率は34%とリーグトップで、エーシズの攻撃の31.2%がウィルソンのシュートという、まさにワンマンチームとも言える状況です。
マーキュリーの下剋上と「エンジン」トーマスの推進力
一方のフェニックス・マーキュリーは、第4シードながらプレーオフで覚醒しました。レギュラーシーズンを27勝17敗で終えた彼らは、1回戦で王者ニューヨーク・リバティを相手に第1戦を落としながらも、そこから2連勝で勝ち上がりました。
そして準決勝では、レギュラーシーズン首位のミネソタ・リンクスを相手に、誰も予想しなかった4連勝で撃破しました。第2戦では20点差を跳ね返し、WNBAプレーオフ史上最大級のアウェイでの逆転劇を演じました。第4戦では第4クォーターに13点差から追いつき、86-81で勝利してファイナル進出を決めました。
マーキュリーの中心は「エンジン」と呼ばれるアリッサ・トーマスです。12年目のベテランは、マーキュリー移籍1年目で平均9.2アシストというリーグトップクラスの数字を記録し、得点とリバウンドでもチームに大きく貢献しています。ダラス・ウィングスからトレードで加入したパリ五輪代表のサトゥ・サバリーは、キャリアハイの平均16.3得点を記録し、ベテランのディワナ・ボナーと共に多彩な攻撃オプションを提供しています。
マーキュリーの特徴は、そのフィジカルさと守備力です。プレーオフでの1試合あたりのファウル数は13.9個と全チーム中最少で、相手を身体で押しながらも反則を取られない巧みなディフェンスを展開しています。プレーオフ全体でディフェンシブレーティング92.2とトップの数字を誇り、オフェンスよりも守備でゲームを支配するスタイルを確立しています。
レギュラーシーズンの対戦成績が示すもの
両チームはレギュラーシーズンで4回対戦し、エーシズが3勝1敗と優位に立っています。しかし、その内容を見ると、勝利の多くは僅差でした。
6月15日の初対戦ではマーキュリーが76-70で勝利しました。その後、エーシズが84-81、86-83、83-61と3連勝しましたが、最後の試合を除けば全て3点差以内の接戦でした。この対戦成績が示すのは、両チームの力が拮抗しているということです。
特に注目すべきは、エーシズとマーキュリーの対戦時、ウィルソンは平均25得点、15.7リバウンド、3アシストと高い数字を残していますが、シュート成功率は45.1%にとどまっています。ただし、フリースローを1試合平均10本以上獲得しており、合計32本のフリースローを得ているのは、マーキュリーのフィジカルなディフェンスの裏返しとも言えます。
勝敗を分ける3つのポイント
1. ウィルソンを止められるか
マーキュリーの最大の課題は、ウィルソンをいかに抑えるかです。身長6フィート7インチ以上の選手は、カラニ・ブラウンただ一人で、プレーオフでは3分間しかプレーしていません。つまり、マーキュリーにはウィルソンと真っ向から対抗できるサイズの選手がいないのです。
ウィルソンはレギュラーシーズン中、制限区域内では70%のシュート成功率を記録していますが、ミドルレンジでは45%まで落ちます。マーキュリーがウィルソンをペイントエリアから遠ざけ、中距離シュートを打たせることができれば、勝機が見えてきます。
また、ファウルのコール基準も重要です。マーキュリーはプレーオフで最もファウルの少ないチームですが、もし審判がタイトにコールし、ウィルソンが毎試合10本以上のフリースローを得られるようになれば、エーシズが有利になります。ウィルソンのプレーオフ平均フリースロー7.3本は全選手トップタイの数字です。
2. マーキュリーのビッグ3 vs エーシズのビッグ3
この対決は、究極的にはビッグ3対ビッグ3の戦いになります。マーキュリーはトーマス、サバリー、カレア・カッパーという3人のスター選手を擁していますが、そのうちファイナルで優勝した経験があるのはカッパーだけです。
一方、エーシズはウィルソン、ジャッキー・ヤング、グレイという2022年と2023年の連覇メンバーがそのまま残っています。ヤングは平均16.5得点と効率的な得点能力を持ち、準決勝第5戦では32得点10アシストという圧巻のパフォーマンスを見せました。
この経験の差が、接戦の終盤で明暗を分ける可能性があります。特に7戦制という長期シリーズでは、メンタルの強さと経験値が重要になってきます。
3. 休養とコンディション
マーキュリーは準決勝を日曜日に終え、金曜日の第1戦まで5日間の休養を得ました。一方、エーシズは火曜日に延長戦を戦い、わずか3日後にファイナルを迎えます。
今シーズン、マーキュリーは3日以上の休養を得た試合で8勝3敗、平均88得点と好成績を残しています。疲労が蓄積しているエーシズに対し、フレッシュな状態で挑めるマーキュリーは、特にシリーズ序盤で優位に立つ可能性があります。
また、エーシズは準決勝でフィーバー相手に予想以上に苦戦し、シリーズを締めくくるのに苦労しました。この点は、マーキュリーにとって希望の光となるでしょう。
専門家の予想とオッズ
ファイナル開幕時点で、エーシズはわずかながら優勝候補筆頭とされています。オッズメーカーはエーシズを-122(約55%の勝率)、マーキュリーを+100(約50%の勝率)程度と見ており、ほぼ互角の戦いが予想されています。
第1戦のスプレッドはエーシズ-3.5点となっており、ホームコートアドバンテージを考慮した数字と言えます。しかし、これはマーキュリーが十分に勝利のチャンスを持っていることを示しています。
多くの専門家は、シリーズがフルの7戦まで進む可能性を指摘しています。エーシズの経験とウィルソンの圧倒的な個人能力、マーキュリーの勢いと守備力。この両者の戦いは、おそらく2025年シーズン最高の試合になるでしょう。
史上初7戦制の意味
今回のファイナルは、WNBA史上初めて最大7戦制(2-2-1-1-1方式)で行われます。これまでの5戦制から拡大されたことで、より長期的な戦略とチームの深さが試されることになります。
上位シードのエーシズは第1戦、第2戦、そして必要に応じて第5戦と第7戦でホームコートアドバンテージを持ちます。しかし、マーキュリーはプレーオフで既にアウェイでの強さを証明しており、この利点が決定的なものになるかは不透明です。
7戦制は両チームのベンチの深さも重要になります。エーシズはケルシー・プラムなどベンチからの得点源を持っていますが、マーキュリーも複数の選手が二桁得点を記録できるバランスの取れたロスターです。
筆者の予想
この記事を執筆している筆者としては、シリーズは第6戦または第7戦までもつれ込む接戦になると予想します。
エーシズは経験とウィルソンという絶対的なエースを持っており、最終的には彼らが3度目の優勝を飾る可能性が高いと考えます。しかし、マーキュリーの勢いと守備力、そして休養のアドバンテージを考えると、シリーズ序盤は彼らが優位に立つかもしれません。
最も注目すべきは、ウィルソンとトーマスという二人のスーパースターの対決です。ウィルソンはキャリア通算でトーマスとの対戦成績が17勝9敗、プレーオフでは6勝3敗と優位に立っています。しかし、トーマスはチームを勝たせるタイプの選手であり、個人スタッツ以上の影響力を持っています。
また、ファウルのコール基準が大きな鍵を握ります。もしマーキュリーのフィジカルなプレーが認められれば番狂わせの可能性が高まり、逆にタイトなコールが続けばエーシズが有利になるでしょう。
最終予想:エーシズが第6戦または第7戦で優勝。しかし、マーキュリーが第1戦か第2戦で勝利を収め、シリーズの流れを掴む可能性も十分にあります。いずれにせよ、この砂漠の決戦は、WNBAファイナル史上最も記憶に残るシリーズの一つになることは間違いありません。
第1戦は日本時間10月4日午前9時にキックオフです。史上初の7戦制、そして両チームの意地とプライドがぶつかり合う歴史的な戦いを、ぜひリアルタイムでご覧ください。
引用: espn

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