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2026年WNBAオフシーズンは前例なき大混乱へ——エイジャの去就、拡張2チーム、そして史上最大のFA市場

WNBA史上、これほどまでに予測不可能なオフシーズンはありません。2020年に締結された労使協定(CBA)からの早期離脱を選手会が決定したことで、ルーキー契約を除くほぼ全選手がフリーエージェントになります。さらに、トロントとポートランドという2つの新フランチャイズが2026年シーズンから参入するため、拡張ドラフトも実施されます。新CBAの交渉が難航すればロックアウトの可能性もあり、リーグ全体が激動の時を迎えています。

ラスベガス・エーシズのニッキー・ファーガス球団社長は、この特別な状況を冗談交じりにこう表現しました。「プランA、プランB、そしてプラン911が必要になるでしょう」。彼女の言葉は決して大げさではありません。通常のオフシーズンとは全く異なる戦略が求められるのです。

なぜこれほどまでに混乱するのか——CBA交渉とタイミングの完璧な嵐

今回のオフシーズンが歴史的に混乱する理由は、複数の要因が同時に重なっているからです。まず、選手会が昨年10月に現行CBAからの早期離脱を決定しました。本来であれば2027年まで有効だった協定を打ち切る判断をした背景には、WNBAの急成長があります。

リーグは2025年に11年総額22億ドルという巨額のメディア放映権契約を締結しました。この金額は前回契約の約10倍にあたります。選手たちは、この急激な収益増加を反映した新しい給与体系を求めています。そのため、多くの選手が意図的に2025年までの短期契約を結び、新CBAのもとで再交渉できる状態を作り出したのです。

その結果、リーグ全体の約80%の選手が2026年シーズン前にフリーエージェントになるという前代未聞の事態が発生します。通常であれば、オフシーズンにFAになる選手は全体の3割程度です。今回は倍以上の選手が動く可能性があり、リーグの勢力図が一夜にして塗り替わる可能性があります。

さらに複雑なのは、CBA交渉が10月末の期限までにまとまらなければ、ロックアウト(選手の締め出し)が発生する可能性があることです。ロックアウトが長引けば、2026年シーズンの開幕が遅れたり、最悪の場合は中止になったりする恐れもあります。

拡張ドラフトという新たな変数——トロントとポートランドの影響

2026年にはトロント・テンポとポートランドの新チーム(チーム名未発表)が参入します。ゴールデンステート・バルキリーズが2025年に加わったばかりで、わずか2年で3つの新フランチャイズが誕生するという急拡大です。

拡張ドラフトでは、既存の12チームがそれぞれ最大6人の選手をプロテクト(保護)し、残りの選手から新チームが1人ずつ指名できる仕組みです。2025年のバルキリーズの拡張ドラフトでは、各チームから1人ずつ計12人が指名されました。

しかし、2026年は2チームが同時に参入するため、単純計算で既存チームは合計2人の選手を失う可能性があります。これは、チーム編成に大きな影響を与えます。特に、深いベンチを持つチームにとっては痛手となるでしょう。

バルキリーズは拡張初年度にプレーオフ進出を果たし、チェイスセンターは全ホームゲームで満員となりました。ファンから「ボールハラ」という愛称で親しまれる雰囲気は、FA選手にとって魅力的な環境となっています。この成功例を見た選手たちは、トロントやポートランドの新チームに対しても前向きな印象を持つかもしれません。

トロントはWNBA初の国際拠点となります。カナダ市場の大きさと、NBAラプターズのオーナーであるラリー・タネンバウムの資金力は、大物FA獲得に有利に働く可能性があります。一方、ポートランドは女子プロスポーツへの熱狂的な支持で知られる都市です。かつてポートランド・ファイアーというWNBAチームが存在しましたが、財政難で2003年に消滅しました。今回の復活は、より強固な財政基盤のもとで行われます。

エイジャ・ウィルソンは動くのか——スーパースターたちの決断

4度のMVPに輝くエイジャ・ウィルソンの去就は、2026年オフシーズン最大の焦点です。彼女はラスベガスで8シーズンを過ごし、チームを3度の優勝に導きました。しかし、現在29歳の彼女にとって、これは最後の大型契約を結ぶ絶好の機会かもしれません。

エーシズのファーガス球団社長は、エイジャ、ジャッキー・ヤング、チェルシー・グレイという核となる3人を維持することが最優先だと明言しています。シアトルから移籍してきたジュエル・ロイドも含め、このコアを保つことができれば、エーシズは2026年も優勝候補であり続けるでしょう。

ただし、新CBAで給与上限(サラリーキャップ)がどれだけ引き上げられるかによって、状況は変わります。もし上限が大幅に上がらなければ、エーシズは全員を残すことが困難になります。そうなれば、エイジャが他チームからのオファーを真剣に検討する可能性もあります。

他にも注目すべきスター選手は多数います。ブリアナ・スチュワート、ジョンケル・ジョーンズ、ネカ・オグウミケ、スカイラー・ディギンズなどは、すでに2回のコア指定(チームが独占交渉権を持つ仕組み)を受けているため、完全なFAとなります。これらのベテランスターがどこでプレーするかによって、リーグの勢力図は大きく変わります。

フェニックス・マーキュリーのサトゥ・サバリーは、選手たちの選択基準について興味深い視点を提供しました。「チャンピオンシップを勝ちたいなら、周りに良い選手が必要です。でもお金も欲しい。人々の目標は何でしょうか? チームを牽引して注目を集めたい人もいれば、給料面で少し譲歩してスーパーチームを作りたい人もいるでしょう」

彼女の言葉は、2026年のFA市場が単なる金銭的な取引ではなく、選手たちのキャリアビジョンが問われる場になることを示唆しています。

チーム別展望——誰が動き、誰が残るのか

大きな変化が予想されるチーム

ダラス・ウィングスは、ドラフト1位でペイジ・ベッカーズを獲得する最有力候補です。彼女を中心とした新体制構築が始まりますが、最大の疑問はアリケ・オグンボウェールが残るかどうかです。オグンボウェールはダラスでキャリア全体を過ごしてきましたが、ベッカーズ加入によりチーム内での役割が変わる可能性があります。新しい練習施設の建設と新ヘッドコーチの採用も進行中で、チームは大きな転換期を迎えています。

シカゴ・スカイは、怪我に悩まされた2025年シーズンから立ち直る必要があります。コートニー・バンダースルートはACL損傷で7試合しか出場できず、エンジェル・リースとアリエル・アトキンスも長期離脱しました。GMのジェフ・パグリオッカは「ロースターを絶対に改善する必要がある」と明言しており、大幅な変更が予想されます。特に、リースのシーズン終盤の騒動により、彼女のシカゴでの未来は不透明です。

変化が少ないと予想されるチーム

インディアナ・フィーバーは、ケイトリン・クラークとアライヤ・ボストンがまだルーキー契約であるという大きなアドバンテージがあります。GMのアンバー・コックスは、ケルシー・ミッチェルの再契約を最優先課題としています。ミッチェルはMVP級のシーズンを送り、ステファニー・ホワイトHCとの関係も良好です。怪我で本来の力を発揮できなかった2025年シーズンでしたが、ファイナル進出まであと5分というところまで迫りました。主力を維持できれば、2026年は優勝候補となるでしょう。

アトランタ・ドリームは、カール・スメスコHCの初年度にフランチャイズ記録の30勝を挙げました。アリーシャ・グレイ、ブリオナ・ジョーンズ、ジョーディン・カナダという主力FAの再契約が鍵となります。リン・ハワードとナズ・ヒルモン(最優秀シックスマン賞)は制限付きFAなので、チームに優先権があります。成功を収めたシーズンの直後だけに、主力の大半が残留する可能性は高いでしょう。

フェニックス・マーキュリーは、2024年に比べて大幅にロースターを入れ替えたにもかかわらず、ファイナル進出を果たしました。サバリーとアリッサ・トーマスという新加入組と、カーリア・カッパーが健康であれば強力なトリオを形成します。サバリーはチームの文化と環境を高く評価しており、「ここには本当に良いものがある」と語っています。こうした雰囲気の良さが、FA選手の残留を促す可能性があります。

予測が最も難しいチーム

ニューヨーク・リバティは、サンディ・ブロンデロHCの交代が確定しています。GMのジョナサン・コルブは、ブリアナ・スチュワート、サブリナ・イオネスク、ジョンケル・ジョーンズの3人が残留すると「最大限の信頼」を示していますが、新HCによってチーム哲学が変わる可能性もあります。イオネスクのバックコートパートナーを常に評価していると述べており、周辺選手の入れ替えはあるかもしれません。

ミネソタ・リンクスは、レギュラーシーズン最高成績を残しながらも、プレーオフでフェニックスに敗れました。この敗戦が、チーム編成の見直しを促す可能性があります。ナフィーサ・コリアーは残留濃厚ですが、スモールフォワードポジションの得点力強化と「真の」ポイントガードの獲得が課題です。シカゴとのトレードで獲得したロッタリー指名権も、チーム強化の重要な材料となります。

シアトル・ストームは、ノエル・クインHCが解任されたことで、新HCによって方針が大きく変わる可能性があります。エジ・マグベゴーがFAであり、ネカ・オグウミケとスカイラー・ディギンズという36歳のベテラン2人の去就も焦点です。若手のドミニク・マロンガはルーキー契約ですが、チームの核を維持するか、大幅に刷新するかは新HCの判断次第でしょう。

新CBAの争点——選手たちは何を求めているのか

選手会の副会長でもあるナフィーサ・コリアーは、7月のオールスターゲームで「誰もロックアウトは望んでいません。しかし、特定の問題については断固とした姿勢を貫きます」と語りました。選手たちは「Pay Us What You Owe Us(私たちに払うべきものを払え)」と書かれたウォームアップTシャツを着てコートに登場し、交渉に対する強い意志を示しました。

新CBAの主な争点は以下の通りです。

給与水準の大幅引き上げ:現在のWNBAの最低年俸は約7万5000ドル、最高年俸は約24万ドルです。リーグが22億ドルのメディア契約を結んだことを考えると、これらの金額は不十分だと選手側は主張しています。NBAの最低年俸が100万ドル以上であることと比較しても、格差は明らかです。

収益分配の改善:現行CBAでは、選手への収益配分率が約10%とされています。選手側は、この割合を大幅に引き上げることを求めています。NBAでは選手が収益の約50%を受け取っており、これに近づけることが目標です。

ロースターサイズとサラリーキャップ:現在のロースターは最大12人ですが、これを拡大することで、より多くの選手に機会を与えることができます。また、サラリーキャップの引き上げにより、チームがスター選手を複数抱えやすくなります。

福利厚生と労働環境:チャーター機の使用、出産休暇、メンタルヘルスサポートなど、選手の福利厚生面での改善も重要な議題です。

リーグ側も選手の要求を認識していますが、拡張による費用増加や、将来的な収益の不確実性を理由に、慎重な姿勢を示しています。交渉の行方次第では、シーズン開幕が遅れる可能性もあります。

2026年シーズンへの展望——新時代の幕開けか混乱か

2026年のWNBAは、間違いなくリーグ史の転換点となります。新CBAのもとで選手たちがより公正な報酬を得られるようになれば、リーグの持続可能性は高まります。一方で、交渉が難航すればロックアウトによる混乱が起こり、せっかくの成長の勢いが失われる恐れもあります。

拡張チームの参入は、リーグの認知度と市場規模を拡大する絶好の機会です。特にトロントという国際市場への進出は、WNBAのグローバル化にとって重要な一歩となります。ポートランドも、かつての失敗を教訓に、より強固な基盤のもとで再スタートを切ります。

FA市場の大混乱は、一見すると不安定要素に見えますが、リーグの流動性を高め、競争力のバランスを改善する可能性もあります。強豪チームが主力を失い、弱小チームが大物を獲得することで、どのチームにも優勝のチャンスが生まれるかもしれません。

ファンにとっては、自分の応援するチームのロースターが大きく変わる可能性があり、不安と期待が入り混じる時期となります。しかし、この変化こそが、WNBAが次のレベルに到達するために必要なプロセスなのかもしれません。

エイジャ・ウィルソンがどこでプレーするのか、ペイジ・ベッカーズがどのチームに加わるのか、新CBAはどのような内容になるのか——2026年のWNBAは、答えを待つ疑問で満ちています。今後数ヶ月の動向から目が離せません。

引用: espn

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