NBA開幕直後の興奮が冷めやらぬ中、リーグは再び賭博スキャンダルという暗い影に包まれています。ポートランド・トレイルブレイザーズのヘッドコーチ、チャンシー・ビラップスとマイアミ・ヒートのガード、テリー・ロジアーが連邦捜査局(FBI)によって逮捕されました。この事件は、わずか数か月前のジョンテイ・ポーター事件の記憶が新しい中での出来事であり、NBAの信頼性に対する深刻な疑問を投げかけています。
事件の全容:マフィアとの関係も浮上
FBIのカシュ・パテル長官とジョセフ・ノセラ連邦検事は、違法賭博組織に関連する捜査で約30名以上を拘束したと発表しました。その中にビラップスとロジアー、そして元選手でコーチのデイモン・ジョーンズが含まれていました。
ビラップスに対する容疑は電信詐欺とマネーロンダリングの共謀です。報道によると、ビラップスはニューヨーク、マイアミ、ラスベガス、ハンプトンズでマフィアと関係のある違法ポーカーゲームに関与していた疑いがあります。さらに深刻なのは、FBIの起訴状において「共謀者8番」として言及される人物の説明がビラップスの特徴と一致しており、インサイダー情報を提供していた可能性が指摘されている点です。
ロジアーに関しては、今回が初めての疑惑ではありません。過去にもNBAの調査対象となっており、偽の足の怪我で試合を欠場したという疑惑がありましたが、その際はリーグから潔白とされていました。しかし今回の逮捕により、当時の調査の甘さを指摘する声も上がっています。
ビラップスは弁護士を通じて全ての不正行為を強く否定していますが、リーグ関係者の間では「煙が立ちすぎている」という見方が支配的です。NBAは即座にビラップスを無期限の休職処分とし、アシスタントコーチのチアゴ・スプリッターが暫定ヘッドコーチに昇格しました。
リーグ内の反応:困惑と失望の声
ヒューストン・ロケッツのイメ・ウドカHCは、試合前の記者会見で厳しい表情でこの問題について語りました。スプリッターは以前ロケッツでウドカの下でアシスタントを務めており、その昇進を喜ぶべき状況ではない複雑な心境を吐露しています。
「誰も見たくない厳しい状況です」とウドカは述べました。「多くの人々が不幸な状況に巻き込まれていますが、私たちは毎年この問題について十分な教育を受けています。詳細については多くを知りませんが、また会議が予定されており、この点を再確認することになるでしょう」
リーグ内の反応は混乱、失望、そしてショックの入り混じったものです。Yahoo Sportsが複数の関係者に取材したところ、ロジアーの関与については過去の疑惑もあり驚きは少ないものの、ビラップスの疑惑については「絶対に信じられない」という声が大半を占めています。
あるリーグ関係筋はYahoo Sportsに対し、「いくつかの面で懸念があります。ジョンテイ・ポーター事件の後、リーグはこの問題を乗り越えたと思っていました。しかし今回は、以前リーグから潔白とされたテリー・ロジアーが逮捕され、現役のヘッドコーチも同様の疑惑に直面しています。見た目としては最悪です」と語りました。
さらにこの関係者は、2007年のティム・ドナヒー審判の八百長事件やポーター事件と比較しながら、「ドナヒーやポーターの場合は、周囲よりもはるかに少ない収入で経済的なプレッシャーに弱い立場でした。しかし今回の容疑者たちはNBAで1億ドル以上を稼いできた人物です。これは動機についてより深い疑問を提起し、試合の公正性を守るために必要な対策について考えさせられます」と指摘しました。
アダム・シルバーの苦悩:タイミングの悪さ
この事件のタイミングは、NBAにとって最悪としか言いようがありません。リーグは現在、ある球団のサラリーキャップ迂回疑惑についても調査を進めている最中です。10月下旬、本来ならば新シーズンの開幕を祝うべき時期に、複数の延長戦、50点越えのパフォーマンス、リーグに溢れる才能の豊かさを讃えるべきタイミングで、スポーツの公正性そのものが疑問視される事態となっています。
アダム・シルバーコミッショナーは、金曜日のボストン・セルティックス対ニューヨーク・ニックスの試合中、Amazonのインタビューで「深く動揺している」と述べました。
「リーグとファンにとって、競技の公正性以上に重要なものはありません」とシルバーは語りました。「この知らせを聞いたとき、胃が痛くなりました。非常に動揺しています」
シルバーの言葉は重みを持っていますが、一部の選手や関係者からは、リーグの対応が後手に回っているという批判も出ています。
選手たちの懸念:ジェイレン・ブラウンの問題提起
セルティックスのスター、ジェイレン・ブラウンは全米バスケットボール選手会(NBPA)の副会長でもあり、金曜日に記者団に対して率直な意見を述べました。
「組合との会話を通じて、NBAが『環境の中で選手をもっと守るにはどうすればいいか』と考えたことが一度でもあるとは思えません」とブラウンは語りました。「全ては『ビジネスと収益をどう増やすか』についてです」
「そのようなことの余波や結果について、十分な会話がなされていないと思います」
ブラウンの発言は、スポーツ賭博の合法化が急速に進む中での選手保護の問題を浮き彫りにしています。2018年の最高裁判決以降、多くの州でスポーツ賭博が合法化され、NBAも複数の賭博会社とパートナーシップを結んでいます。リーグは賭博による収益増加を享受する一方で、選手を賭博関連の問題から守るための十分な対策を講じているのか、という疑問が投げかけられているのです。
多くの選手は、この問題の繊細さと身近さから、コメントを避けています。しかしブラウンのような影響力のある選手が声を上げることで、この問題が単なる個人の不祥事ではなく、リーグ全体として取り組むべき構造的な課題であることが明確になりました。
今後の展開:氷山の一角か
リーグ内では、今回のFBI捜査によってさらに多くの名前が浮上する可能性があるという見方が広がっています。「これは氷山の一角なのか」という疑問が、選手、コーチ、フロントオフィスの間で囁かれています。
今後数日から数週間にかけて、リーグ全体の選手が最近の出来事について質問されることになるでしょう。これはNBAをビジネスとして見たときの根本的な意図と、その結果として選手にもたらされる影響についての、より広範な議論につながる可能性があります。
トレイルブレイザーズは、スプリッター暫定HCの下で新シーズンを迎えることになりますが、チームの士気への影響は避けられません。ロジアーが所属するヒートも、主力ガードを欠いた状態でのシーズン運営を強いられます。
NBAは1950年代のポイントシェービングスキャンダル、2007年のドナヒー事件など、過去にも賭博関連の問題に直面してきました。しかし今回の事件は、スポーツ賭博が合法化され、リーグ自体が賭博会社と深い関係を持つ時代に起きたという点で、より複雑な様相を呈しています。
シルバーコミッショナーとNBAは、この危機にどう対応するのか。より厳格な監視体制の構築、教育プログラムの強化、そして選手保護のための新たな仕組みが求められています。同時に、リーグは賭博会社とのパートナーシップを維持しながら、どのようにして試合の公正性を担保するのかという難しい舵取りを迫られています。
NBA開幕直後の明るいニュースは、この暗い影によって完全にかき消されてしまいました。リーグの信頼回復には時間がかかるでしょう。そして何よりも、ファンが求めているのは透明性のある調査と、二度とこのような事件が起きないための具体的な対策です。

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