エンジェル・リースは、2024年のWNBAドラフトにおいてシカゴ・スカイから全体7位指名を受けて入団しました。
ルーキーイヤーとなった2024年シーズンは、持ち前のリバウンド力とインサイドでの存在感を武器に、開幕直後から主力として活躍します。
平均13.6得点・13.1リバウンドというダブルダブルの成績を残し、新人ながらリーグ屈指のリバウンダーとして注目を集めました。
その活躍は高く評価され、ルーキーシーズンにして早くもオールスターにも選出されています。
2024年シーズン終盤には手首の怪我で数試合を欠場しましたが、チームの将来を担う柱として期待される存在です。
2025年シーズン開幕時点でも怪我から復帰し、2年目の飛躍へ向けて順調なスタートを切っています。
WNBAドラフトとルーキーシーズンの背景
リースはNCAAでの活躍によりドラフト前から「世代最高峰のプロスペクト」の一人と目されていました。
2024年のドラフトでは同期のケイトリン・クラーク(インディアナ・フィーバー入団)らと共に大きな注目を集め、全体7位でシカゴに指名されます。
シカゴ・スカイは近年主力選手の移籍が相次ぎ再建期に入っており、リースはチームのフロントコートを支える即戦力として迎えられました。
ルーキーイヤーの2024年シーズン、彼女は開幕から先発に抜擢され、期待以上のパフォーマンスを発揮します。6月には1試合平均14.5得点・13.2リバウンドという支配的な成績で月間最優秀新人賞を受賞し、7月にはキャリアハイとなる27得点も記録しました。
シーズンを通してリバウンドでリーグを席巻し、合計446リバウンドはWNBAのシーズン記録を更新しています。
さらに15試合連続ダブルダブル達成や3試合連続20リバウンド超えなど、数々の新人記録・リーグ記録を樹立しました。
こうした活躍により、リースは新人としてオールルーキーチームに選出されただけでなく、WNBAオールスターにも選ばれています。
新人王こそ同期のクラークに譲ったものの、リーグ史に残る輝かしいルーキーシーズンとなりました。
大学時代の軌跡と実績
メリーランド州出身のリースは高校時代から将来を嘱望される存在で、マクドナルド・オールアメリカンに選出されるなど全国級のスター選手でした。
大学は地元のメリーランド大学に進学し、1年目から活躍します。2年生時には平均17.8得点・10.6リバウンドを記録してチームをスウィート16(ベスト16)進出に導き、オールアメリカンサードチームにも選出されるなど飛躍的な成長を遂げました。
その才能が全国に知れ渡る中、更なる成長と新天地を求めて2022年にルイジアナ州立大学(LSU)へと転校します。
LSUでは名将キム・マルキー監督の下でチームの主力となり、ジュニア(3年生)だった2022-23シーズンには平均23.0得点・15.4リバウンドと圧倒的な数字でチームを牽引しました。
特にリバウンドではシーズン合計555本というSEC(サウスイースタン・カンファレンス)新記録を打ち立て、34回のダブルダブル達成はNCAA史上最多記録となりました。
2023年3月にはその勢いのままチームを女子NCAAトーナメント初優勝に導き、リース自身も大会の最優秀選手賞(MOP)に輝いています。
決勝戦では強豪アイオワ大学を破り、リースは15得点・10リバウンド・5アシストの活躍で勝利に大きく貢献しました。
試合終盤に見せた相手選手への挑発的なジェスチャー(自身の顔の前で手を振り「見えないでしょ」の仕草をするパフォーマンス)は物議を醸しましたが、同時に彼女の勝利への執念とスター性を象徴するエピソードとして広く知られています。
この年、リースは主要メディアのオールアメリカン(AP通信、WBCAなど)に軒並み選出され、大学女子バスケ界を代表する選手となりました。
その後シニア(4年生)となった2023-24シーズンも平均18.6得点・13.4リバウンドでSEC得点王・リバウンド王のタイトルを2年連続で獲得し、チームはエリート8(ベスト8)まで勝ち進みます。
惜しくも連覇は逃したものの、リースは在学中に築いた数々の記録とタイトルを引っ提げて2024年のWNBAドラフトへと旅立っていきました。
コート外での影響力と話題
リースの存在感はコート上に留まらず、オフコートでも大きな注目を集めています。
彼女はLSUへの転校後に「ベイユー・バービー(Bayou Barbie)」という愛称で呼ばれるようになりました。
ルイジアナ州の沼地帯「バイユー」と人気人形「バービー」を掛け合わせたこのニックネームは、華やかなファッションや自信に満ちた振る舞いで知られるリースのキャラクターを表現したものです。
実際、彼女は大学在学中からSNSを通じて自身の個性を発信し続け、2023年のNCAA優勝直後にはInstagramのフォロワー数が一気に100万人を突破しました。
その後も支持層は拡大し、2025年1月時点では約460万人に達してWNBA全選手中トップのフォロワー数を誇っています。
こうした強力な発信力により、大学時代から数多くのスポンサー企業がリースとの提携に名乗りを上げました。
大学在学中に17件ものNIL契約(名前・肖像権利用契約)を結び、Coach(コーチ)やマクドナルド、Wingstopといった大手ブランドの広告塔を務めた実績もあります。
2023年10月にはバスケットボール部門社長に就任したシャキール・オニールの誘いでリーボックと契約し、同社復権の象徴として大々的に報じられました。
また、2023年には体操選手のオリビア・ダンと共に『Sports Illustrated』誌の“NILマネー特集”の表紙を飾り、続いて有名ファッション誌『Harper’s Bazaar』の「世界を変える14人」にも選出されるなど、スポーツの枠を超えた活躍も見せています。
さらに翌2024年にはForbes誌の「30アンダー30(スポーツ部門)」に名を連ねるなど、若きスポーツアイコンとして社会的な注目度も抜群です。 社会的発信にも積極的であり、リースは自身の体験を通じてダブルスタンダードや人種的偏見に声を上げてきました。
前述の挑発パフォーマンスに対する批判が一部で巻き起こった際には、
「男性選手なら称賛されるのに、なぜ私が同じことをして非難されるのか」
と毅然と反論し、女性アスリートに対する偏見に一石を投じました。
また、2023年の優勝後に当時の米国ファーストレディ・ジル・バイデン氏が「準優勝チームのアイオワ大学もホワイトハウスに招待したい」と発言した際には、これを「冗談でしょう」とSNSで一蹴し話題となりました(最終的に招待は優勝校のみに訂正され、チームとしてホワイトハウス訪問が実現)。
こうした率直さと行動力は多くのファンから支持され、彼女自身も「Unapologetically Angel(ありのままのエンジェル)」というタイトルでポッドキャスト番組を始めるなど、自らのメッセージを発信し続けています。
さらに慈善活動にも力を入れており、2023年7月に「エンジェル・C・リース財団」を設立して女子スポーツ振興や教育、金融リテラシー向上を支援するプログラムを開始しました。地元ボルチモアでの物資配布イベント開催や、バトンルージュのコミュニティにバスケットボールコートを寄贈するなど、社会貢献にも積極的です。
NBAやエンターテインメント界とも親交が深く、2023年には人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』で彼女のジェスチャー騒動がパロディ化され、音楽PVへのカメオ出演も果たすなど、その名はバスケットボール以外の領域にも広がっています。
プレースタイルと特徴・評価
コート上のエンジェル・リースは、強靭なフィジカルと高い闘争心を兼ね備えたフォワードです。
身長191cmの体格と俊敏性を活かし、ゴール下でのリバウンド争いでは常に優位に立ちます。
特にオフェンスリバウンドに優れており、シュートが多少不調でも自らセカンドチャンスを拾って得点につなげる粘り強さが持ち味です。
実際、WNBAルーキーシーズンでは平均オフェンスリバウンド5.1本と驚異的な数字をマークし、この部門でリーグトップの成績を収めました。
リースが放ったシュートの成功率は新人年には約39%とフォワードとしては平凡でしたが、それを補って余りある積極性とリバウンドでの貢献度が評価されています。
インサイドでのフィニッシュ力やフリースロー獲得力は大学時代から折り紙付きで、相手ディフェンスにとって脅威となる存在です。
一方、課題としてはアウトサイドシュートレンジの向上やファウルトラブルの回避などが指摘されています。
しかし、向上心の強いリースはこれら弱点の克服にも取り組んでおり、プロ2年目以降にスキルの幅を広げていくことが期待されています。
守備面ではリバウンドのみならずスティールなど俊敏さを活かしたプレーで存在感を示します。ブロックショットはそれほど多くないものの、長い腕と機動力で相手のショットチェックに貢献しています。
大学時代には1試合5スティールを何度も記録するなど、ハードワークとバスケットIQの高さが光りました。精神面でも勝負強く、大舞台で燃えるタイプです。
2023年NCAAトーナメントで見せたように、プレッシャーがかかる場面ほど闘志を前面に出しチームを鼓舞するリーダーシップも備えています。
そのカリスマ性ゆえ、対戦相手を挑発する場面もありますが、これは彼女の負けん気の表れであり、多くのファンを魅了する要因にもなっています。
総じてリースは、「リバウンドモンスター」の異名にふさわしい圧倒的なリバウンド力とインサイド支配力を持つ選手です。
新人ながらWNBAでオールスターに選ばれた実績が示す通り、その能力は既にトップレベルにあります。
今後シュートレンジや経験値が増せば、オフェンス面でもさらに完成度を高めていくでしょう。
専門家からは「将来リーグを代表するダブルダブルマシンになり得る逸材」との評価も聞かれ、早くも殿堂入り選手級のキャリアを期待する声も上がっています。
今後の展望
エンジェル・リースは、WNBAのみならず女子バスケットボール界全体の将来を背負って立つスター候補です。
2年目となる2025年シーズン以降、彼女は更なる成長と飛躍を遂げる可能性を秘めています。
所属するシカゴ・スカイは若手中心の再建途上にありますが、リースを軸に据えてチーム力向上を図っています。
同じドラフト同期でライバル視されるケイトリン・クラークとは東地区で頻繁に対戦することになり、両者の対決はWNBAの新たな看板カードとして注目を集めるでしょう。
大学時代から続く因縁のライバルがプロの舞台で火花を散らす構図は、リーグの盛り上がりにも大きく寄与するはずです。
個人としては、まずはWNBAで年間リバウンド王やオールWNBAチーム選出といった実績を積み重ねていくことが期待されます。
新人年に達成した平均ダブルダブルは今後も継続が有力視され、健康にシーズンを送ればさらなる記録更新も夢ではありません。
将来的にはリーグMVPやチャンピオンシップ制覇といった目標も視野に入ってくるでしょう。
リース自身、
「常に向上を続け、ゆくゆくはレジェンドと呼ばれる存在になりたい」
と公言しており、その言葉通り研鑽を積んでいます。
また、リースは競技面のみならず市場価値や影響力の面でも特筆すべき存在です。
若い世代から絶大な支持を得る彼女の活躍は、WNBAの人気拡大や女子スポーツ全体の地位向上にもつながっています。
今後も彼女が発信するメッセージやブランド展開は大きな注目を集め、リーグの枠を超えたアイコンとしての活躍が期待されます。
例えばファッション分野での才能も示しており、モデル活動や自身のアパレルブランド展開など、新たなチャレンジにも意欲を見せています。
さらに近い将来、アメリカ代表としてオリンピックや国際大会で活躍する可能性も高いでしょう。
リースは2023年に米国代表候補合宿にも参加しており、将来的には世界の舞台で金メダルを目指すと目されています。
総括すると、エンジェル・リースは抜群の競技能力とスター性で女子バスケットボール界に新風を吹き込む存在です。
コート内外で輝きを放つ「ベイユー・バービー」のこれからの歩みは、多くのファンに夢と刺激を与えてくれることでしょう。その成長と挑戦から目が離せません。
参考情報
Sports Illustrated
Sports Business Journal