ナカセHC

5000万ドルが3年で10億ドルに──女子プロスポーツ史上初の1ビリオン球団ヴァルキリーズが、主力の飼い猫にシッターまで付ける理由

 

女子プロスポーツの球団が、ついに10億ドルの大台に乗りました。CNBCが5月4日に公開した2026年のWNBA球団価値ランキングで、ゴールデンステート・ヴァルキリーズがただ1球団だけ10億ドルと評価され、女子プロスポーツ史上初の「1ビリオン球団」になっています。しかもこのチーム、2025年に産声を上げたばかりの拡張球団です。The Athleticは8月4日、その内側を長編ルポで描きました。読み終えてまず浮かんだのは、「勝ち方が上手いチーム」という以上に「人の扱い方が上手い会社」だという印象でした。

2位に4億ドル差、10億ドルの中身を数字で見る

CNBCのランキングでヴァルキリーズに続くのは、リバティの6億ドル、フィーバーの5億6000万ドル、エーシズの5億ドル、ストームの4億5000万ドルです。2位のリバティに4億ドルもの差をつけた計算になります。CNBCのシニア記者マイケル・オザニアンによれば、2025年の収益はリーグ最高の7300万ドルで、2026年は9000万ドルを超える可能性があるとのことです。今季のシーズンチケットは1万2000枚が売れる見込みで、これはリーグ記録になります。

箱の強さも数字に出ています。チェイス・センターはWNBAの試合で38戦連続の完売を続けています。さらに球団はベイエリア一帯に35か所の観戦バーのネットワークを築き、試合日に人が集まる場所そのものを自前で作ってきました。

コート上も本物です。8月4日時点で20勝9敗、勝率.690の西地区3位につけています。首位リンクス(25勝6敗)とは4ゲーム差で、守備効率はリーグ1位を走っています。2025年の初年度は23勝21敗で拡張球団として史上初のプレーオフ進出を果たし、ナタリー・ナカセが最優秀コーチに選ばれました。

1998年に消えたリーグの最大出資者が、28年かけて辿り着いた場所

背景を知ると、この10億ドルの見え方が変わります。オーナーのジョー・ラコブは、1996年に発足して1998年末に消滅した女子プロリーグABLの最大出資者でした。当時は早すぎたのだ、と本人は振り返っています。そのラコブがピーター・グーバーとともに2023年、5000万ドルを払って15年ぶりのWNBA拡張球団の運営権を手にしました。3年で評価額は20倍です。この成功を受け、次に参入するクリーブランド、デトロイト、フィラデルフィアの加盟金は1球団2億5000万ドルに設定されました。

球団の思想は、細部に出ます。ガビー・ウィリアムズが飼う9歳の保護猫(名前はハル・ベリー)の世話が試合日程と衝突したとき、球団はシッターを手配しました。FA市場でカイア・ストークスが「昔から眠りが浅い」と漏らせば、掛け布団やマットレスの交換からマグネシウムのサプリ、睡眠検査までを提案したといいます。日本との接点も少なくありません。ナカセはクリッパーズでインターンに入る前、ドイツと日本で指導経験を積んでいますし、ベロニカ・バートンのスポンサーには楽天が名を連ねています。

「丁寧さ」が全球団の義務になった今、優位はどこまで持つのか

ここからが本題です。ヴァルキリーズの強みの多くは、4月に確定した新CBAによってリーグ全体の義務に格上げされました。収益分配、施設の基準、住宅補助、年金。かつてはチャーター便が禁じられ、ロッカーすら用意されない球団があった時代からの断絶です。つまり「他より丁寧に扱う」という差別化は、放っておけば確実に薄まります。

球団社長ジェス・スミスの言葉が象徴的でした。「昨シーズンは映画のプレミア上映ではありませんでした」。すでに視線は次に向いています。スタンドの区画ごとの「性格」を調べてブランド化する構想を練り、来場する男性客の調査では「娘と来る父親」よりも20代の単独客が多く、しかも物販の単価が高いことを突き止めました。国際市場の開拓も議題の上位にあります。

筆者の見立てでは、本当の試金石は新規3球団が参入するタイミングです。加盟金2億5000万ドルを払う彼らは、NBA球団と施設を共有するというヴァルキリーズと同じモデルを最初から持ち込んできます。そのときに、この球団の優位が「ベイエリアという立地とタイミング」だったのか、「実行力」だったのかが判定されます。オザニアンは5年以内に運営の良い球団はすべて10億ドルに届くと予想していますが、裏を返せば、届かない球団との差はここから一気に開くということでもあります。5000万ドルの賭けが20倍になった物語は、リーグ全体にとっては祝福であると同時に、静かな最後通牒でもあるのだと思います。

今後の見どころ

ヴァルキリーズはレギュラーシーズン終盤に向け、リンクス、エーシズと西地区の首位争いを続けています。ジャネル・サラウンやケイトリン・チェンといった無名から這い上がった選手たちがどこまで勝ち上がるのか、チェイス・センターの完売記録がどこまで伸びるのかは、今季後半の大きな見どころです。日本からはWNBA League Passなどの配信でチェックできます。

引用:https://www.nytimes.com/athletic/7489414/2026/08/04/golden-state-valkyries-wnba-billion-dollar-franchise/

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