リーグを代表する指揮官の口から出た3人の名前に、クラークは含まれていませんでした。エーシズのヘッドコーチ、ベッキー・ハモンが現地8月9日、ステュワートのMVP資格について問われた際に返した答えが、いま北米のファンの間で大きな議論を呼んでいます。名前が挙がらなかったこと自体よりも、ハモンが「最高」を決めるときに何を見ているのかが透けて見える発言で、そこが面白いところだと感じました。
ハモンが挙げた3人と、その裏付けになる数字
ハモンはまずステュワートについて、MVP候補にふさわしいことに疑いの余地はないと評価しました。そのうえで自身の物差しを「セパレーション・ファクター」、つまり他の選手と隔てる要素だと説明し、こう続けています。「自分にとって最高の選手は、エイジャ、ステューイー、フィーです」。理由として挙げたのは、3人がコートの両エンドに大きな影響を与えていること、そして勝っていることの2点でした。
数字を並べると、この3人の立ち位置がよく見えてきます。Basketball-Referenceの2026年リーダーボードによると、ウィルソンは平均26.3得点でリーグ1位、通算788得点も1位、リバウンドは平均9.7本で3位、ブロックは平均2.0本・通算60本でいずれも1位です。効率指標のPERは32.3で、2位のボストン(24.1)に8以上の差をつけています。ステュワートは平均21.3得点で5位、平均8.4リバウンド、ブロックは通算47本で4位、PERは24.0で3位につけています。
コリアーだけは事情が違います。両足首の手術の影響で今季は開幕から27試合を欠場し、復帰は7月下旬でした。規定出場数に届いていないため、リーグの主要ランキングにはほとんど名前が出てきません。それでもハモンが躊躇なく3人目に置いたという事実こそが、この発言の性格を物語っています。積み上げた累計値ではなく、コートに立っているときの影響力で選んでいるということです。
クラークの数字はステュワートを上回っています
興味深いのは、純粋な生産量ではクラークがステュワートを上回っている点です。同じリーダーボードで、クラークは平均21.6得点でリーグ4位につけており、ステュワートの21.3得点をわずかに上回っています。さらにアシストは平均8.1本で、トーマスの8.2本に次ぐ2位です。得点で上位5人に入りながらアシストでもトップ2に食い込んでいるのは、今季クラークだけです。攻撃面の生産だけを見れば、名前が挙がらない方がむしろ不自然にも思えます。
それでも3人が選ばれた理由は、本人の言葉どおり攻守両面と勝敗に尽きます。ウィルソンはブロック1位、ステュワートも4位という守備の裏付けを持っています。一方でクラークは、アシストとスリーで試合の流れを作る存在ではあるものの、守備系スタッツのリーグ上位に名前は見当たりません。
勝敗という条件も無視できません。8月11日時点の順位表では、リンクスが27勝7敗で首位、ヴァルキリーズが23勝9敗、エーシズが22勝11敗と続き、フィーバーは20勝12敗でドリームと並ぶ4位タイです。決して悪い位置ではありませんが、上位3チームとは差があります。しかもリンクスは、コリアー不在の27試合を21勝6敗で走り抜け、彼女が戻ってからの7試合も6勝1敗で来ています。いなくても勝てるチームをさらに押し上げているという文脈があるため、出場7試合でもコリアーの評価は落ちなかったわけです。
この発言はMVP投票の季節に効いてきます
ハモンの発言をクラークへの敵意と読むのは、おそらく正確ではありません。ウィルソンは自身が指導する選手ですから身内を推す構図は確かにありますが、ステュワートとコリアーは他球団の選手です。むしろこの3人選びは、MVP投票の季節を前にした問題提起として機能しています。何を評価軸に置くのか、という問いです。
WNBAのMVPをめぐっては、得点と話題性が投票に影響しているという指摘が繰り返されてきました。ハモンはそこに、両方のエンドで効いているかという物差しを置き直した格好です。この基準で見ると、PERで2位に8以上の差をつけているウィルソンのMVPレースは早々に決着します。逆にクラークにとっては、残り試合で守備での存在感をどこまで示せるかが、評価をもう一段引き上げる鍵になりそうです。
ファンの議論が割れるのも当然でしょう。クラークがリーグにもたらした観客動員や放映権の価値は数字にはっきり出ますが、それは最高の選手の定義とは別の話です。ハモンはその線引きを、あえて曖昧にしなかったとも言えます。3人の名前を出したあとに「この名前を聞き飽きている人もいるだろう」と自ら添えているあたりに、分かったうえで言い切っている強さがありました。
検証の舞台は今週やってきます
エーシズは現地8月11日と13日にミスティックスと連戦を戦い、15日にはリンクスとの直接対決が組まれています。ウィルソンとコリアーが同じフロアに立つこの一戦は、ハモンの言葉をそのまま検証できる格好の舞台になりそうです。フィーバーは現地8月11日にリバティ、14日にウィングスと対戦します。クラークがそこでどんな数字を残すのか、そしてハモンの評価が変わる日が来るのかどうかも気になります。残り1カ月あまりのレギュラーシーズンを見る楽しみが、また一つ増えました。

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