ケルシー・プラム

「ほかにどこへ行きたいの? 残りは全部試したでしょう」──背番号3を天井に上げた夜に、タウラシがプラムへ放った引き留めの一言

 

マーキュリーがダイアナ・タウラシの背番号3を永久欠番にし、リング・オブ・オナーに迎え入れた日曜日(日本時間8月17日)。式典そのものが最大の見どころだったはずのこの夜に、もう一つ、フェニックスの未来を左右しかねない言葉が飛び出しました。今季限りで契約が切れるケルシー・プラムに向けて、タウラシが自ら口にした引き留めの口説き文句です。

「ほかにどこにいたいというの? ほかは全部試したでしょう」。20年間ひとつのユニフォームを着続けた人間だからこそ言える、身も蓋もない一言でした。筆者が受けた第一印象は、これは冗談めかしていながら本気度が高い、ということです。球団のGMでもHCでもなく、天井に自分の番号が上がったばかりのレジェンドが、公の場でリクルートを始めた。この構図自体が、いまのマーキュリーの必死さを何より雄弁に語っています。

4試合で17.3得点、そしてまた止まったふくらはぎ

プラムは8月2日のトレード期限直前、スパークスからフェニックスへ移りました。対価はモニーク・アコア・マカニと2027年1巡目、2028年2巡目の指名権。優勝を狙う位置のチームがやる補強ではなく、この選手を残したいという意思表示に近い動きでした。

数字を並べると、その価値の高さがよく分かります。今季のプラムは通算16試合で平均22.3得点5.6アシスト、フィールドゴール成功率52.8%、スリーポイント成功率38.6%。とりわけスパークス在籍時の12試合は平均23.9得点6.4アシストで、キャリアハイの水準にありました。移籍後のマーキュリーでも4試合で平均22.3分の出場ながら17.3得点、成功率は53.5%、スリーは40.0%と落ちていません。出場時間あたりの生産性で言えば、むしろ上がっているくらいです。

問題は、その体がまだ完全ではないことです。プラムは6月21日から左脚の負傷で長期離脱しており、復帰後も出場時間制限がついたままでした。タウラシの式典が行われた8月16日(現地)のポートランド・ファイア戦も、ふくらはぎの状態を理由に欠場しています。マーキュリーはこの試合を85対88で落とし、デワナ・ボナーの23得点も報われず、戦績は13勝23敗。西カンファレンス6位で、残りは8試合となりました。プレーオフ争いという意味では、現実的にかなり厳しい位置です。

テキスト1通から始まった、球団ぐるみの口説き

今回のタウラシの発言は、突然出てきたものではありません。プラムがマーキュリーでデビューした8月4日のシカゴ・スカイ戦の前、タウラシは彼女に、ほかの誰でもなく君がいい、という趣旨のメッセージを送っていました。プラムはそれが自分にとってすべてを意味すると語り、光栄だと表現しています。タウラシはプラムにとって憧れの存在でしたから、この一通の重みは外から見える以上のものでした。その試合でプラムは20得点を挙げ、終盤に勝ち越しのスリーを沈めています。

球団側の姿勢も一貫しています。GMのニック・ユーレンは交渉の中身は明かさないとしたうえで、長くここにいてほしいと語りました。HCのネイト・ティベッツも、14試合や15試合のレンタルではなく積み上げたいものだ、という趣旨の発言をしています。フロントも現場もレジェンドも、同じ方向を向いている状態です。

ここで効いてくるのが、タウラシという人物の説得力です。2004年の全体1位指名から2024年の引退まで、彼女は一度もマーキュリー以外のWNBAチームでプレーしていません。3度の優勝、2度のファイナルMVP。通算得点はリーグ史上2位に2000点以上、スリーポイント成功数も400本以上の差をつけて歴代1位です。よそに行かなかった人が、よそを全部試した人に残留を勧める。この対比は、どんなプレゼン資料よりも強いはずです。

金額では勝負が決まらない時代に、何を売るのか

ここからは筆者の見立てです。今オフのプラム争奪戦は、金額だけでは決着しないと見ています。新CBA元年の2026年は年俸100万ドル超えが31人まで増え、上限に近い提示ができる球団は複数あります。つまり、いくら払えるかは差別化要因になりにくいのです。

そうなると、勝負どころは環境と物語になります。マーキュリーが持っているのは、まさにそこです。タウラシの式典で見せた街ぐるみの熱量、フェニックスという都市がひとりの選手をどう扱うかという実例、そして本人が公言しているオーナーシップへの関心。タウラシは引退後に球団経営への関与を視野に入れていることを認めており、もし将来的にそれが実現すれば、彼女の言葉は口説き文句から経営判断へと格上げされます。プラムからすれば、憧れの人がフロントにいる球団という条件は、単純な年俸差を埋めうる要素でしょう。

一方で、逆風もはっきりしています。13勝23敗という現実は、どれだけ物語を積んでも消えません。プラムは今季すでにスパークスとの再契約を選ばない方向で動いた経緯があり、勝てないチームに残る理由を彼女自身が最も厳しく問うはずです。マーキュリーが残り8試合でやるべきは、順位を上げることよりも、プラムがコートに戻ったときに、この5人となら来季は違う、と思わせる時間を作ることではないでしょうか。ボナーとの併用、ティベッツの起用法、それを見せられる機会はもう多くありません。

今後の予定

マーキュリーの次戦は日本時間8月23日午前11時、本拠地でのアトランタ・ドリーム戦です。以降もワシントン・ミスティックスとの2連戦、トロント・テンポ戦とホームが続き、残りは8試合。プラムの復帰時期は明言されていませんが、彼女が戻る試合こそ、この夏の口説き文句が本物かを測る場になります。

引用:https://clutchpoints.com/wnba/phoenix-mercury/mercury-news-diana-taurasi-reveals-pitch-lure-kelsey-plum-back-free-agency

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