リバティー イオネスク スチュアート

「このアリーナを安全な場所だと感じてほしいのです」──両サイドの集会に囲まれたブルックリンで、ステュワートが選んだ言葉と30年目のWリーグ

 

レギュラーシーズンが最終盤に入り、順位表よりも会場の外で起きていることが見出しになる週末が続いています。8月22日、ブルックリンで行われたリバティ対フィーバーの試合前には、トランスジェンダー女性のリーグ参加をめぐって、賛成と反対それぞれの立場を掲げる集会が開かれました。AP通信によれば、いずれも平穏に行われたということです。その日の朝、少人数の記者に囲まれたステュワートが口にしたのは、勝敗でも順位でもなく「安全な場所」という言葉でした。30年目を迎えたリーグがいま何を守ろうとしているのか、その輪郭が見えるコメントだったように感じます。

試合前に語られた「安全な場所」

ステュワートは、両方の立場から集会が行われていること自体がWNBAというプラットフォームの大きさを示していると述べたうえで、こう続けました。「今夜ここに来るリバティのファンにも、インディのファンにも、このアリーナを安全な場所だと感じてほしいのです」。

彼女は、ファンが会場に足を運ぶのは、どんな形であれ自分らしくいられると感じられるからであり、そこを見失いたくないとも語っています。同時に、誰もが自分の意見を持つ権利があり、それが認められなくなるならもっと大きな問題がある、という立場も明確にしました。そのうえで問題視したのは意見の中身ではなく、チームやチームメイト、対戦相手のあいだに分断を持ち込もうとする動きのほうでした。

一方、議論の発端となったカニンガムは、この一連の注目が結果としてリーグにプラスに働いているという見方を試合前に示しています。新しいファンが実際に会場を訪れ、環境と選手のレベルを目にすることで、これまで競技に触れてこなかった子どもたちにも届く、という理屈です。同じ出来事を見ていても、立っている場所によって見えるものはここまで変わります。

発端は先月のESPN特集、そしてCBAに残された空白

議論が一気に広がったきっかけは、先月公開されたESPNの特集記事でした。その中でフィーバーのカニンガムが、トランスジェンダーの少女や女性が女子スポーツで競技することに反対の立場を明らかにしたのです。以降、フィーバーの試合会場の外では小規模な集会や抗議が繰り返されてきました。

ここで押さえておきたい事実が2つあります。1つは、WNBAにこれまでトランスジェンダーの選手が在籍したことは一度もないということ。もう1つは、労使協定がWNBAを女性に限ると定めている一方で、性自認や出生時に割り当てられた性別について、それ以上に具体的な文言を置いていないということです。つまりこの論争は、既存ルールの解釈をめぐる争いではなく、ルールが書かれていない空白地帯で起きています。だからこそ、答えが出ないまま熱だけが上がりやすいのだと思います。

運用面のちぐはぐさも表面化しました。先週日曜、アトランタで行われたドリーム対フィーバー戦では、トランスジェンダー女性の女子スポーツ参加に関するメッセージが入ったシャツを着ていた少なくとも3人のファンが、リーグの警備担当者からシャツを隠すよう求められています。リーグは後に、彼らはそのシャツを着る自由があったはずだと認めました。現場の判断に委ねられた結果、対応が揺れたことを示す一件です。

「代弁者」を背負わされる選手たち

ステュワートは、キャリアを通じてトランスジェンダーコミュニティを支持する姿勢を示してきました。昨年は、自身のシグネチャーシューズがハリー・ポッターをテーマにしたことでオンライン上の批判に直面しています。原作者のJ.K.ローリングが、トランスジェンダーに否定的な姿勢をめぐって批判を受けてきたためです。その際ステュワートは、このシューズのロイヤリティを、LGBTQ+の若者を対象とした自殺防止・危機介入団体であるトレヴァー・プロジェクトに寄付しました。

ここに、いまのWNBAが置かれた構造がよく表れています。観客動員も放映も右肩上がりで伸びた結果、リーグは社会の対立をそのまま持ち込まれる器にもなりました。バスケットボールの技術で評価されるはずの選手が、リーグの外で続く論争の代弁者としてマイクを向けられる。ステュワートが「分断を持ち込ませない」という一点に絞って話したのは、そこから逃げず、かつ誰かを断罪もしない、かなり難しい着地点を狙ったからではないでしょうか。

現実的な焦点は、リーグが会場運営の基準をどこまで明文化できるかに移っていくはずです。アトランタでの一件が示したように、警備担当者ごとに判断が変わる状態は、どの立場のファンにとっても不利益になります。プレーオフに向けて注目度がさらに上がるなかで、統一された運用が示せるかどうかは、ステュワートの言う「安全な場所」が理念で終わるか実務になるかの分かれ目になりそうです。

観戦のポイント

レギュラーシーズンは残りわずかとなり、リバティとフィーバーがポストシーズンで再び顔を合わせる可能性も十分にあります。この日のブルックリンのように、会場の外の空気まで含めて一つの試合になってしまう構図は、しばらく続くのかもしれません。日本から中継で追うファンにとっても、コート上のマッチアップと合わせて、リーグがこの問題にどう向き合うかを見ておく価値のある終盤戦です。

引用:https://www.foxsports.com/articles/wnba/breanna-stewart-wants-a-safe-space-as-transgender-debate-sparks-rallies-at-fever-games

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