2017年2月8日にマディソン・スクエア・ガーデンで起きた一件が、9年近い時間をかけてまた一つの節目を迎えました。ニックスの元パワーフォワードであるチャールズ・オークリーが、警備員から暴行を受けたとしてMSG側を訴えていた裁判で、連邦地裁が略式判決によってMSG側の主張を認めたのです。率直に言えば、この判断そのものより、判事が書いた理由の冷徹さのほうが印象に残りました。1万9000人と無数のカメラの前で起きた出来事が、9年かけて「証拠がない」と結論づけられたわけです。
12ページの判断が突きつけたもの
ニューヨーク南部地区連邦地裁のリチャード・J・サリバン判事は、金曜深夜に12ページの判断を出し、MSG側の略式判決の申立てを認めました。略式判決とは、争点について陪審が判断するまでもないと裁判所が考えたときに、審理を経ずに結論を出す手続きのことです。つまり裁判所は、この件を陪審に委ねる必要すらないと判断したことになります。
判事が根拠として挙げたのは、新たに提出された映像、目撃者の宣誓供述、そして複数回の証言録取でした。判断文にはこうあります。「合理的な陪審であれば、オークリーが不当な身体的接触の危険にさらされたと合理的に恐れたとは結論づけられない」。さらに判事は、1万9000人の観客と多数のビデオカメラの前で起きたにもかかわらず、押し倒されたと述べる目撃者が本人以外に一人もいない点を指摘しました。9年という歳月をかけて集められた証拠が、原告側にとって不利な方向にしか積み上がらなかったということです。
提訴から数えて、これが3度目の却下です
時系列を整理しておきます。オークリーが退場処分を受けたのは2017年2月8日のクリッパーズ戦で、提訴はその約7か月後の同年9月でした。当初はニックスのオーナーであるジェームズ・ドーランも被告に名を連ねていましたが、ドーランに対する請求は2020年にすべて却下されています。その後に残ったのが、MSGと関連法人を相手取った暴行および傷害の請求でした。
ここからが特異な経緯です。サリバン判事は2020年に当初の訴状を却下し、2021年には略式判決でMSG側に軍配を上げました。ところがオークリー側はいずれも第2巡回区控訴裁判所に上訴し、暴行・傷害の請求は二度とも復活して地裁に差し戻されています。つまり今回の判断は3度目の却下であり、同時に原告側にとっては3度目の上訴機会でもあるという、極めて珍しい状況です。
なお、ドーランは2017年に一時的にオークリーをアリーナから締め出しましたが、同じ年のうちにその措置を撤回しています。それでもオークリー自身は、ドーランが謝罪するまでガーデンでのニックス戦には足を運ばないという姿勢を崩していません。昨年10月には、退場後のテキストメッセージを保全しなかったとして、約64万2000ドルの弁護士費用の支払いを命じられてもいます。
「MSG対オークリー」から「MSG対弁護士」へ移る可能性
今回の判断で事件が完全に閉じたわけではありません。オークリー側の2件の申立てが係属中で、弁護団は「即時の陪審裁判」を求めて第2巡回区へ持ち込む構えを見せています。過去2回の上訴でいずれも請求が復活している以上、この読み自体は決して無謀ではありません。ただ、今回は映像と複数の宣誓供述という新証拠を踏まえた判断であり、過去2回と同列に扱えるかは疑問が残ります。
一方でMSG側は声明の中で、9年にわたり虚偽と知りながら請求を続けたとして、オークリー側の代理人であるダグラス・ウィグドーと同法律事務所への法的措置を進めていると明言しました。ここが今後の焦点になりそうです。争いの軸が、退場をめぐる事実認定から、訴訟追行そのものの是非へと移っていく可能性があるからです。スポーツ興行の現場で起きた数十秒の出来事が、ここまで長く高くつくという事実を、リーグ全体の運営側は改めて見ているはずです。
ガーデンに戻る日は来るのか
オークリーは1988年から10年間ニックスでプレーし、パトリック・ユーイングの時代のチームを泥臭く支えた選手でした。だからこそ、この訴訟が長引くほどにファンの心情も複雑になります。判断が最終的にどう決着するにせよ、彼が観客としてガーデンの席に座る映像が流れる日が来るのかどうか。2026-27シーズンのMSGを見に行く機会がある方は、その日が来ることを少しだけ期待して足を運んでみてもいいかもしれません。
引用:https://frontofficesports.com/charles-oakley-msg-lawsuit-dismissed/

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