WNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルバートが、リーグを分断のために利用しようとする動きを公の場で名指ししました。現地時間8月20日、ダラス・ウィングス対インディアナ・フィーバーの試合を前に、アメリカン・エアラインズ・センターで開かれた対談でのことです。同じ日、会場の外では女子スポーツにおけるトランスジェンダー選手の扱いをめぐるデモが行われていました。リーグのトップがこのテーマに正面から言葉を割いたという点で、今季でも特に重い発言だったと感じています。
試合前の対談で出た「政治のフットボール」という言葉
この対談はウィングスが午後7時開始の試合に先立って設けた場で、ダラス・モーニング・ニュースのマイア・テイラーがやり取りを伝えています。エンゲルバートはまず、リーグが置かれている状況をこう表現しました。「We’re being the center of political football for people who have never watched the WNBA, never have written about the WNBA or reported on the WNBA.」。WNBAを観たことも、書いたことも、取材したこともない人たちによる政治的な綱引きの中心に置かれている、という趣旨です。
そのうえで、選手やリーグにとって悪意の言葉と向き合うことは簡単ではないとしながら、それは成長の副産物でもあると述べました。批判者は常に存在するがそれを否定する、と語り、正当なスポーツメディア・エンターテインメント商品として認められたからこそ起きることだ、と続けています。ここで注目したいのは、エンゲルバートが批判の存在そのものを「成功の証」と位置づけたことです。同じ整理が選手側からどう見えるかは、また別の問題として残ります。
1カ月前にアダム・シルバーが使ったのと同じ表現
「political football」という言い回しは、実は初めて出てきたものではありません。NBAコミッショナーのアダム・シルバーが7月に、インディアナのケイトリン・クラークを指して同じ表現を使っています。共和党の議員グループが、クラークに向けられた「人種的な動機による攻撃」だと彼らが受け止めた事象について、リーグに説明を求める書簡をエンゲルバートに送った後のことでした。トップ2人が同じ単語にたどり着いているという事実は、WNBAが現在置かれている位置を端的に示しています。
今回の背景には、フィーバーのソフィー・カニンガムが、トランスジェンダーの少女や女性を女子スポーツから除外することへの支持を表明した一件があります。以降、その立場に賛同する人たちがチームの試合に集まるようになり、反対する人たちも同じように声を上げてきました。ハードファウルや小競り合いといった、他競技であれば数日で消えるはずの出来事が、WNBAでは何週間もトークショーやポッドキャストの題材となり、ジェンダーや人種、セクシュアリティをめぐる論争に接続されていく。この構図が、この夏に繰り返されてきたわけです。
「否定する」という言葉の先に、何を用意できるのか
ここからは筆者の見立てです。今回の発言でエンゲルバートは、外部からの攻撃を「否定する」と明言しました。ただ、現時点でリーグが具体的な制度として何かを決めたわけではありません。チーム社長とゼネラルマネージャーによる作業部会がトランスジェンダー選手の問題を協議したものの、出場資格に関するルールは定まっていないと報じられています。言葉の強さと制度の空白が同時に存在している、というのが現在地です。
エンゲルバートのコミッショナー契約は今季限りで満了を迎えます。カニンガムをはじめとする選手からリーダーシップへの疑問が公然と示されているタイミングでもあり、この問題への対応は評価の材料になっていくはずです。個人的には、リーグが今後求められるのは「否定する」の一言ではなく、選手が試合と無関係な論争の矢面に立たされない仕組みそのものだと考えます。人気が上がるほど外部の関心も強まる以上、成長を歓迎するのであれば、その副作用への備えも同じ速度で整えなければ釣り合いません。
残り試合はわずか、シーズンは終盤へ
なお、この対談の後に行われたウィングス対フィーバーは91対85でウィングスが勝利しました。フィーバーのケルシー・ミッチェルはこの試合で連続20得点試合の記録を更新しており、コート上でも話題の尽きない一夜でした。レギュラーシーズンは残り10試合を切ったチームが多く、プレーオフのシード争いはいよいよ大詰めです。コート外の論争が続く一方で、順位表の緊張感も日ごとに増しています。試合日程や中継情報は、各チームの公式サイトで確認できます。

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