ラスベガス・エーシズに加入した山本麻衣が、7月28日のポートランド・ファイア戦でWNBAデビューを果たしました。出場時間は3分、得点は0。スコアシートだけを眺めれば何も起きなかった3分間です。ところが現地メディアが伝えたその中身を追っていくと、なぜハモンHCがあの場面で彼女をコートに送ったのかが、はっきりと見えてきます。そして8月1日、エーシズはシカゴ・スカイに83対84で敗れ、ベンチ陣の得点は合計5点でした。デビューの3分と、この5点。一見なんの関係もなさそうなふたつの数字は、実は同じ問題の表と裏だと筆者は受け止めています。
3分間で無得点、それでも「見せ場」はあった
デビュー戦の舞台は、本拠地ミシェロブ・ウルトラ・アリーナで行われたポートランド・ファイア戦でした。エーシズが98対83で勝ち切った試合の終盤、ハモンはスターターを一斉に下げ、育成契約のタニヤ・ラトソンとともに山本を投入します。オールスターブレイク明けで練習はわずか1日、そこからいきなりの実戦でした。
出場3分で得点は0。それでも山本は仕事をしています。ジュエル・ロイドへ通した一本のパスがステファニー・タルボットの3ポイントにつながり、コートに立った瞬間には観客からスタンディングオベーションが送られました。ハモンは試合後、相手のダブルチームに遭ってもトラップから自力で抜け出したこと、ボールを持ったときのスピードを評価しています。「彼女の名前が呼ばれるときは、いつでも信頼しています」というのがハモンの言葉でした。
なお7月30日のリバティ戦では出番がありませんでした。それでもベンチで準備を続けていたことを、現地の記者は書き残しています。
3ポイント7本の24得点が呼び込んだ契約
エーシズにとって山本麻衣という名前は、突然出てきたものではありません。4月26日のプレシーズン、エーシズが日本代表を94対78で下した一戦で、山本は3ポイント7本を含む24得点を叩き込んでいます。24点のうち21点が3ポイントによるものでした。相手チームのアリーナで7本沈めた選手を、球団側が忘れるはずがありません。
球団が契約を発表したのは7月17日、オールスターブレイクの直前でした。ハモンが7月22日に語った獲得理由は具体的です。デイナ・エバンスが復帰したばかりでポジションに保険が欲しかったこと、そしてワールドカップが近く、戻ってきたばかりの選手を休ませる必要が出てくるかもしれないこと。「そのポジションで、彼女はダウンヒルに攻められる」という評価も添えられていました。
国際経験も豊富です。FIBAのシニアカテゴリーだけで7大会を戦い、2024年パリ五輪の初戦では、76対102で敗れたアメリカ戦で17得点3リバウンド5アシストを記録しました。FIBAアジアカップでは2021年に金、2023年に銀。3人制のU23では2018年ワールドカップで銀、2019年には金メダルを獲得しています。国内では2017年からトヨタ自動車アンテロープスに在籍し、2021年と2022年の連覇に貢献しました。チームメートのエバンスは、山本のシュートレンジの深さとリリースの速さ、そして試合の流れを読む賢さを挙げています。
ベンチ5得点という現実と、迫るベルリン
そして8月1日のシカゴ・スカイ戦です。エイジャ・ウィルソンが36得点12リバウンド、ジャッキー・ヤングが18得点11リバウンド、ナリッサ・スミスが17得点。主力3人で71点を稼いだにもかかわらず、エーシズは残り1秒を切ってからシドニー・テイラー(29得点)に3ポイントを決められ、83対84で敗れました。この試合、ラスベガスのベンチ陣が挙げた得点は5点だけです。
主力に71点、控えに5点。この極端な偏りが1点差の明暗を分けたと見るのは、決して乱暴な読みではないはずです。エーシズはこれで20勝9敗。優勝を狙うチームとして、ここは放置できない弱点でしょう。
さらに9月4日から13日にかけて、ベルリンでFIBA女子ワールドカップが開催され、WNBAは中断に入ります。日本はグループAでスペイン、ドイツ、マリと同組です。ハモンが7月に口にした「ワールドカップが近い」という一言は、この中断とその前後の消耗を見据えたものでした。世界大会から戻った主力を休ませるなら、ボールを運べるガードがもう一枚要る。山本に求められているのは、おそらく得点力そのものよりも、ボールを前に運んでオフェンスに淀みを作らない役割ではないでしょうか。エバンスが「ディテールに目が届く」「バスケットボールIQが高い」と表現したのは、まさにその適性を指しているように思えます。
5連戦のロードトリップと、動き続けるリーグ
エーシズはシカゴ戦を皮切りに、5連戦のロードトリップに入っています。慣れないチームに合流してわずか2週間、移動続きの日程はハードですが、ラスベガスの猛暑を離れられる点だけは本人にとって救いかもしれません。実際、山本は現地の暑さについて「暑くて乾きすぎています」と率直に話しています。
リーグ全体も動いています。日本時間8月3日午前4時にトレード期限が締まり、その直前にはケルシー・プラムがロサンゼルス・スパークスからフェニックス・マーキュリーへ移る大型トレードが成立しました。ロスター事情が刻々と変わるこの時期に、ベンチの層をどう厚くするかは全球団の課題です。9月の中断が近づくほど、山本の名前が呼ばれる場面は増えていくはずです。3分間で終わったデビュー戦が「最初の一歩」だったと振り返れるかどうかは、これからの数週間にかかっています。

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