NBA史上初の妊娠公表トレーナーが古巣を提訴しました──キングスは全面否認、8つの請求が突きつける遠征と出産の両立問題

 

コート上の話題が途切れるオフシーズンの終盤に、キングスにとって重い知らせが入りました。元アシスタント・アスレティックトレーナーのクリスタル・リーが、球団と幹部1人を相手取ってサクラメント郡上位裁判所に民事訴訟を起こしたのです。訴状には妊娠差別、セクシュアルハラスメント、報復、不当解雇を含む8つの請求が並んでいます。球団側はこれを全面的に否定しました。第一報を読んで感じたのは、これはひとつの球団の話にとどまらない、リーグ全体の職場のあり方に関わる訴えだということでした。

2022年から2025年6月まで、3年間で何が起きたと主張されているのか

報道によれば、リーはキングスのアスレティックトレーナーとして2022年から働き、2025年6月12日に解雇されました。彼女はNBA史上初めて妊娠を公表したアスレティックトレーナーであり、NBA球団に在籍したまま出産した初のトレーナーでもあるとされています。つまり前例のない立場に置かれた人物が、その前例のなさゆえに困難に直面したと訴えている構図です。

訴状の主張を時系列で並べると、輪郭が見えてきます。2023年2月、妊娠中期にあたる時期に、球団はリーをロードゲームの帯同から外したとされます。出産はその年の5月ですから、数か月前倒しの措置ということになります。続く同年4月には降格されたと主張しています。産休から復帰したあとも遠征に同行させてもらえず、最終的には選手の治療そのものからも遠ざけられたというのが原告側の説明です。

そして解雇のタイミングが争点になります。リーは、人事担当のシニアバイスプレジデントに一連の懸念を伝えてから1か月足らずで職を失ったと主張しています。因果関係を示す状況証拠として、この時間的な近さは原告側が最も強調している点です。訴えられているのは球団本体であるサクラメント・キングス・リミテッド・パートナーシップと、アスリートヘルス部門のシニアディレクターを務めるジャスプリート・ランダワの2者です。

球団は「断固として否定」、GMやヘッドコーチは被告に含まれず

キングス側の反応は明確でした。球団の代理人は、これらの申し立てを断固として否定し、そこで描かれた組織像や職場像を受け入れないという趣旨の声明を出しています。差別やハラスメントの訴えを真剣に受け止め、全従業員が尊厳をもって扱われる職場を維持する方針であるとしたうえで、法的手続きの中で全面的に争う構えを示しました。

訴状では、ゼネラルマネジャーのスコット・ペリーやヘッドコーチのダグ・クリスティーの名前も登場しますが、いずれも被告としては名指しされていません。ペリーについては、リーの在籍末期に複数回の面談を行い、解雇が伝えられた2025年6月12日の場にもいたと記されています。原告側の代理人は、提訴前に球団との間で解決に向けた努力を重ね、調停の場も持ったものの、まとまらなかったと説明しています。

ここで強調しておきたいのは、現時点で示されているのはあくまで一方の主張と、それに対する全面否認だという点です。民事訴訟は長い時間をかけて事実が確定していく手続きであり、結論を先取りする材料はまだ揃っていません。

スポーツ現場の「働き方」が問われる局面に入っています

ここからは独自の考察になります。この件が単なる一球団の労務トラブルにとどまらないのは、アスレティックトレーナーという職種が置かれた構造そのものに触れているからです。トレーナーは選手と最も長い時間を共有しながら、契約上は一般の従業員という立場にあります。年間82試合とプレーオフを含めれば、遠征は半年以上に及びます。この「移動が業務の前提」という条件が、妊娠や出産と真正面からぶつかるのは避けようがありません。

だからこそ、NBA史上初めて妊娠を公表したトレーナーが提訴に至ったという事実が重く響きます。前例がないということは、球団側にも運用の手引きがなかったということです。移動制限をどう扱うか、復帰後にどの業務から戻すか、その判断が本人の意向とどこまですり合わされていたのか。訴訟の争点は結局のところ、その運用設計の妥当性に集約されていくはずです。

NBAは近年、女性コーチや女性審判の登用を進め、フロントオフィスの多様性も高めてきました。ただ登用の数と、現場で働き続けられる制度の整備は別の話です。今回の訴訟がどのような結末を迎えるにせよ、各球団が遠征を伴う職種の産休・復職ルールを文書化する動きにつながる可能性は十分にあります。ファンから見えにくい部分ではありますが、チームを支える人たちの労働環境は、長い目で見ればコート上の質にも跳ね返ってくるものです。

今後の見通し

訴状の全文はサクラメント郡上位裁判所のウェブサイトで確認できるとされています。民事訴訟の性質上、審理は年単位で進むのが一般的で、途中で和解に至る可能性も残ります。キングスは新シーズンに向けてサボニスを中心とした戦力整備を進めている最中であり、コート外のこの案件がチームの空気にどう影響するかも、開幕後に注視したいポイントです。

引用:https://www.si.com/nba/kings/onsi/former-sacramento-kings-employee-files-civil-lawsuit-against-team

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