移籍市場が動き始めてから2か月近くが経ちましたが、8月下旬になってもまだ契約先が決まっていない名前が残っています。ジェイレン・デューレン、ジョナサン・クミンガ、ベネディクト・マチュリンの3人です。NBCスポーツが3人の現在地を整理していますが、共通するのは全員が当初の想定より低い金額で着地しそうだという点です。制限付きフリーエージェントという制度が選手側にいかに不利かがよく見える夏になっています。
デューレン交渉は「険悪」、22歳が向き合う1億3000万ドルの重み
最も金額の大きい話がデューレンです。昨季のピストンズで平均19.5得点10.5リバウンドを記録し、初のオールスターとオールNBAに選出されました。60勝したチームの2番手として文句のつけようがない数字です。オールNBA入りによっていわゆるローズルールが適用され、理論上はサラリーキャップの30%、5年2億8700万ドルまで狙える立場になりました。ウェンバンヤマがこの夏サインした25%の5年2億3900万ドルが、現実的な着地点として意識されていたはずです。
ところが、リーグ関係者がNBCスポーツに対して交渉を「noxious(険悪)」と表現するほど、話し合いは荒れています。ピストンズ側が提示しているのは年3000万ドル台前半とされ、レイカーズがウォーカー・ケスラーに払った年平均3250万ドルや、ロケッツがアルペレン・シェングンに与えた5年1億8500万ドルを下回る水準です。デューレン陣営が反発するのは当然でしょう。
とはいえ、球団側の言い分にも根拠はあります。デューレンはプレーオフで平均10.2得点8.5リバウンドまで数字を落とし、プラスマイナスもマイナスでした。レギュラーシーズンとポストシーズンで別人になる大型ビッグマンに最高額を出すのはリスクだ、という判断です。残る選択肢は960万ドルのクオリファイングオファーですが、たとえ球団の低めの提示でも4年で1億3000万ドル前後になる計算で、22歳がそれを蹴るのは現実的ではありません。落としどころは5年1億9000万〜2億ドル前後だと筆者は見ています。
クミンガが失った選択肢、ミネソタの600万ドルという現実
クミンガの状況はもっと厳しくなりました。ホークスが2430万ドルのチームオプションを行使しなかった時点で市場に出たものの、彼が期待していたミッドレベル以上の契約を出す球団が現れていません。しかもペイトン・ワトソンがキャバリアーズへ移ったことで、サイン&トレードの受け皿がひとつ消えました。
現在テーブルについているのはレイカーズとティンバーウルブズの2球団です。レイカーズは早い段階で2年2000万ドルを提示しましたが、クミンガ側はこれを安すぎるとして拒否しました。皮肉なことに、今となってはその条件を取り戻せるかどうかも怪しい状況です。ホークスとのサイン&トレード交渉も、贅沢税ラインまで380万ドルしか余裕がなく、しかも17人と契約している同球団が塩を送る理由に乏しく、簡単には進みません。
さらに厄介なのが制度上の縛りです。サイン&トレードで結ぶ契約は最低3年でなければならず、本人が市場価値より低いと感じている金額に3年縛られることになります。一方でティンバーウルブズはミッドレベルの残り600万ドルをそのまま使えるため、トレードを介さずに即決できる立場です。金額は低くても身動きの取りやすさでは勝ります。
忘れてはいけないのが、彼がウォリアーズ時代にスティーブ・カーと衝突した理由です。ボールを持ちたいという欲求とチームが求める役割のずれは、ドンチッチとリーブスがボールを支配するレイカーズでも、エドワーズがいるミネソタでも繰り返されます。金額より適性で見るべき移籍です。
マチュリンはクリッパーズの混乱に巻き込まれています
3人目のマチュリンは、少し事情が違います。彼の去就が固まらない最大の理由は、所属先のクリッパーズがアスピレーション問題の調査中で、カワイ・レナードのラプターズ移籍もまとまらないまま宙に浮いているからです。八村塁が所属するこのチームは、レナードのトレードが成立すれば契約選手が17人に達し、開幕前に数人を放出か解雇しなければなりません。マチュリンを迎える余白が、そもそも物理的にないのです。
本人の実績は悪くありません。イビツァ・ズバッツを絡めたトレードでペイサーズから加入した昨季、26試合で平均17.4得点5.5リバウンドを記録しました。ただし3ポイント成功率は20.7%にとどまり、アシストとほぼ同数のターンオーバーを喫しています。得点力は本物でも、効率と判断には課題が残るという評価です。複数球団がサイン&トレードを探ったとも報じられていますが、形にはなっていません。
現実的な着地は880万ドルのクオリファイングオファーでプレーし、来夏に完全なフリーエージェントになる道でしょう。判断期限は10月1日なので、ぎりぎりまで様子を見られます。前例では、同じ道を選んだクエンティン・グライムズがレイカーズと4年6000万ドルを勝ち取った一方、キャム・トーマスは現時点で契約先がありません。ハイリスクな賭けです。
トレーニングキャンプまでの数週間が勝負です
この3件はいずれもトレーニングキャンプ開始が実質的な期限になります。デューレンは金額、クミンガは行き先と契約年数、マチュリンは所属球団の外部要因と、膠着の性質はそれぞれ違います。共通するのは球団側が時間を味方にできる構造で、来夏以降にこの制度をめぐる議論が強まると筆者は見ています。八村塁のクリッパーズがロスターをどう整理するかも含め、9月の動きが今季の勢力図を最後に微調整することになりそうです。

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